都市計画関連のまちづくり
事業−都市計画事業、民間事業など
| [書評]まちに森をつくって住む |
2004/12/22
|
●2004年11月13日(土)午前10〜12時、株式会社チームネット代表取締役の甲斐徹郎さんの「環境再生のための事業戦略」というお話を聞く機会があった。評者がワークショップのファシリテーターとして関わった、小平・生活者ネットワーク主催、西武新宿線・花小金井駅近くの「小平・旧長銀グラウンド跡地の今後を考えるワークショップ」の前段となる学習会でのことである。
甲斐さんの語る「環境共生住宅」のコンセプトと、それを事業として成り立たせるための戦略を聴いて、評者は大変感銘を受けた。そのときの話とほぼ同様の内容を収めている本が、『まちに森をつくって住む』(甲斐徹郎・チームネット 農文協 2004年11月1日発行 2,800円)である。
●評者は、自然環境に関する知識は、全くの素人である。そのような人間でも、たった2時間の話で、「環境共生住宅」のコンセプトをよく理解することができた。甲斐さんらの唱える「環境共生住宅」とは、樹木などの自然環境をうまく活用し、住宅の外の環境を良くすることで、冷暖房などのコストを極力かけずに、室内環境を快適にしてしまおう、というものである。
最近、東京ランポの事務所がある世田谷区をはじめ、あちこちの良好な住宅地で見られるのが、相続に際して多額の相続税を支払うために、宅地の一部が売却されるという光景である。売却された土地では、それまで住宅地の環境を豊かにしていた樹齢を重ねた木が切られ、敷地を目一杯使った戸建住宅やマンションが建ち、申し訳程度に新しい小さな木が植えられるというものである。
このような傾向は、豊かな樹木がもたらしていた、暑い夏を涼しく寒い冬を暖かくする自然の作用を破壊し、住む者にとって大きな「損」となっている、というのが甲斐さんらの主張である。樹木など地域の緑が持つ「天然の空調装置」としての機能に気づき、緑をうまく活用することによって、住む者にとっての「得」に変える方法が、本書では述べられている。
●詳しくは、ぜひ本書をご覧いただきたいが、より興味をお持ちいただけるよう、簡単にメカニズムをご紹介したい。
ものが持つ実際の温度は、人間がそれに触れたときに体感する温度とイコールではない。例えば、金属を手で触ると冷たく感じるが、同じ温度の布を触っても冷たく感じないというのは、金属の方が熱を通しやすいため、触った手から急速に熱が奪われているからである。このような熱の移動を左右するものには、「気温」「輻射(放射)」「風」「湿度」の4つがあるという。
「環境共生住宅」では、これらの要素をうまくコントロールすることで、局地的に周囲とは異なった気候である「微気候」を発生させて、快適な外環境を生み出し、室内環境に取り込むのである。
具体的には、建物の南に落葉樹、北に常緑樹を植える。夏の場合、南の木は、日光や、アスファルト道路が熱くなって放射する輻射熱を遮断する役割を果たす。また、根から吸い上げた水分が葉から蒸発して上昇気流となる(雲ができる原理)ため、代わって上空の空気が下降気流となって押し下げられ、北の木と建物の間に溜まっている冷気を家のなかに流し込む。こうして、夏でも涼しい室内環境が生み出される。
一方、冬の場合、南の木は葉が落ちて、日光が室内に取り込まれる。また、北の木は、北からの寒い風を遮断する防風林となる。こうして、冬でも暖かい室内環境が生み出される。このほかにも、屋上緑化や壁面緑化によって、特に夏の涼しさについて、効果をさらに高めることができる。
●甲斐さんらチームネットは、このようなコンセプトの住宅を、実際にいくつか手がけている。本書でも、甲斐さん自身の自宅兼事務所がある「経堂の杜」(12世帯、世田谷区)や「欅ハウス」(15世帯、世田谷区)などが紹介されている。この2つの集合住宅は、いずれも相続税のために売りに出さざるを得なくなった土地について、緑を残したいという地主さんの意志を受けて、「環境共生住宅」のコンセプトに賛同した複数の家族が募集に応じ、組合を結成して建てたコーポラティブハウスである。
どんなに良いコンセプトのものでも、お金を出して買おうという人がいなければ、事業として実現しない。甲斐さんらのコンセプトは、それに賛同する人たちを得て現実のものとなっている。
甲斐さんは、コンセプトを理解してもらうには、快適さを「体感」してもらうことがポイントだと言う。単に緑を守ろうと言っても人は動かないが、緑の持つ快適さを知ってしまえば、住宅の一部に取り込まれて緑が残るのである。本書でも、甲斐さんらが「環境共生住宅」を普及させるためにやっているNPO「エコロジー住宅市民学校」の紙上講座があったり、評者らがお話を聴いたときにも、実際に外に出たり、ものに触れたりして「体感」しながら、理解を深めていった。
●ところで、チームネットというのは、建築事務所ではない。「環境共生住宅」のコンセプトを考案し、広めているマーケティングの会社である。そのため、事業としていかに成り立たせるか、事業として成り立たせることで世の中を変えていく、という考え方が基本にある。
だから、どこかの市民活動家のように、「環境」や「コミュニティ」をプロパガンダとして、何の戦略もなく声高に叫ぶようなことはしない。むしろ、「環境」や「コミュニティ」を「目的」とするのではなく、快適な生活を送るための「手段」と位置づけ、それが「得」であることを知ってもらうことをねらいとしている。もっとも、甲斐さんが「経堂の杜」の住人として日々体験しているように、いったん「環境共生住宅」に住み始めてしまうと、「環境」や「コミュニティ」を大切にすることが当たり前となり、「手段」から「目的」へと変わるのだそうだが。
このほかにも、コンクリート住宅が普及し、住宅単体で暑さ寒さをしのげるようになった前後で、われわれの生活が、地域との関係のうえで「依存型共生」から「自立型孤立」に変わったが、今後は、単なる昔への回帰ではなく「自立型共生」を目指す必要がある、といったコンセプトづくりのうまさは、さすがマーケティングの専門家である。
●評者は、公園づくりのワークショップでファシリテーターをすることがあるが、今後は、このような「天然の空調装置」としての緑の視点も入れていきたい。ワークショップでは、住民の希望だけを聞いてつくっていくということも多いが、専門的な観点を適切に組み合わせていくことも、より良いものをつくるためには重要である。評者は、「日常知」と「専門知」のミックスということを、日頃から言っている。
本書でも、「環境共生住宅」も、いったんその快適さを知ってしまえば自然に広まっていくが、それを知り実現していくなかでは、専門家のサポートが重要であることが、繰り返し述べられている。
住まいづくりに限らず、職場や公共施設などを、自然の力を借りて快適にするためにも、本書をお読みになることをオススメしたい。
株式会社チームネットホームページ
●最後に、余談であるが、冒頭に書いた「小平・旧長銀グラウンド跡地の今後を考えるワークショップ」は、主催者の呼びかけ力に限界があり、小平・生活者ネットワークの仲間内の人しか集まらなかった。そのため、一般の人も参加してのワークショップではなく、主催者内部の会議をコーディネートするような仕事になってしまった。
この対象となっている「旧長銀グラウンド跡地」とは、花小金井駅の近くに広がる、43,800uもの土地である。バブル期に取得されたため不良資産化し、旧日本長期信用銀行の経営破たんに伴い、1998年3月に(財)民間都市開発推進機構(国土交通省の外郭団体)に売却された。売却によって得られたお金をもとに、旧長銀はこの土地を開発し、その処分にめどを立てて、10年後に買い戻さなくてはならない。しかし、都市計画規制の厳しい第1種低層住居専用地域であるため、いまだ利用方法は固まらず、ますます地価は下がっていると考えられる。
その土地の状況を知り、市民としてどんなことができるかを考えるのが、今回のワークショップの目的であった。なにぶん、市有地ではなく、民間の持つ土地であるため、できることには限りがある。この土地に利害・関心を持つ主体を整理することで、単に公園だの農地だのといった現実性のない提案ではなく、所有者にとっての採算性なども考えに入れながら検討した。
ともかく、都市計画規制のために、大きな建物は建てられないし、小平市では最低でも120u以上の敷地が必要と定める条例が制定間近であるため、平面的に戸数を増やすこともできない。戸数が増やせないのであれば、あとは1戸の値段を上げるしかない。値段を上げるには他にはない価値が必要ということで、「環境共生住宅」のようなものがよいのでは、ということになった。そして、民都機構なり新生銀行(旧長銀)なりが、そういった新たな価値を持つ住宅地をコンセプトに事業者を募集するよう、提案していくことになった。
※ 「[書評]まとまらない意見をまとめる合意形成の技術」、「[書評]市民参加条例をつくろう」、「[書評]市民会議と地域創造」、「[書評]市民自治の憲法理論 <憲法記念日に読む一冊>」もご覧ください。
(東京ランポスタッフ・庄嶋 孝広)
|