市民参加・協働のまちづくり
| 地球温暖化問題で討議制意見調査の試み |
2006/2/3
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●東京ランポの仕事ではないのだが、ファシリテーターを生業の1つとしている筆者は、先日、あるワークショップのお手伝いをする機会があった。
経済産業省(産業技術環境局環境政策課)の委託を受けて、財団法人政策科学研究所が企画・実施した「地球温暖化問題に関するワークショップ」である。
●政策科学研究所が関係するワークショップには、これまでにも若松征男・東京電機大学教授からのおさそいで、「三番瀬の未来を考えるシナリオ・ワークショップ」(2003年5月)、「市民が考える脳死・臓器移植−専門家との対話を通じて−」(2005年1〜3月)などでファシリテーターを務めさせていただく機会があった。
今回は、政策科学研究所が、数名の専門家の協力を得てプログラム設計などを行う形で、欧米豪などで実践例のある、討議制意見調査(Deliberative Poll、DP)をヒントにした手法が試みられた。通常のアンケート調査などが、回答者の思い込みや偏見、勘違いなどに基づく意見をそのまま収集してしまうのに対し、DPは、学習と対話のプロセスを含んだ意見調査である。
まずは、無作為抽出された参加者が、通常の方式でアンケートなどの意見調査に答える。次に、参加者が会場に集まり、資料による公平な情報提供、専門家や政治家との対話などを経て、参加者同士で議論を行う。その後、再度のアンケートなどを行って、討議前と後の意見の変化を調査するというものである。
アメリカで公共事業、イギリスで王制、デンマークでユーロ参加、オーストラリアで共和制導入やアボリジニとの調和などをテーマにDPの実践例があり、討議前と後の意見の変化を示す結果が得られている。学習と対話により問題を理解することで、市民の考えが深まることを示していると言えよう。(詳しくは、篠原一『市民の政治学』、市民参加・合意形成のあり方研究会『市民参加・合意形成手法事例とその検証』などを参照のこと。)
●今回の地球温暖化問題をテーマとするワークショップは、2006年1月28日(土)午前10時〜午後5時、新宿NSビルの3Fホールにて行われた。
討議制意見調査の実践という面はもちろんのこと、今回、市民参加の歴史に新しい一歩を刻んだのは、参加者の集め方である。
無作為抽出による参加者集めは、以前、東京ランポも協力した、東京青年会議所(JC)千代田区委員会による「市民討議会」でも行われたが、千代田区の住民基本台帳を使って抽出した599名のうち、郵送による通知を受けて参加したのはわずかに3名であった。民間団体が無作為抽出で参加者を集めることの難しさを示す結果となった。
ところが、今回は、100名という参加者全員が、なんと無作為抽出により集まった。しかも、参加希望者はその倍以上はいたという。どのようにしたのか?
実は、ネットで登録したモニターを対象に、企業などの依頼を受けて調査を行っている、ネット調査会社に依頼したのである。70万人にのぼる登録モニターのうち、東京・埼玉・千葉・神奈川の一都三県に在住のモニター向けに、今回の調査について案内。返事のあったモニターに詳しい案内を再送し、参加者を募集したのである。事前アンケート→ワークショップ参加→事後アンケートの全てを果たすと2万円の謝金が出る、という仕組みであった。
●さて、この日は、調査のハイライトとなる、ワークショップが行われた日。4部構成に分かれ、次のようなプログラムで進んだ。
第1部 地球温暖化問題について考えよう
・講演 大島正子さん(全国地球温暖化防止活動推進センター)
・自己紹介/意見交換
第2部 私たち一人ひとりに出来ることを考えよう
・講演 三樹尚子さん(環境カウンセラー、NPO法人えこひろば理事)
・意見交換
第3部 多くの人に取組んでもらうには?
・ポスターやパンフレットなど紹介
・意見交換
第4部 ポスター広告を作ろう!
・ポスターの作成
・意見交換/発表
第1〜3部は、講演や説明の形で情報提供を受けた後に、参加者同士が意見交換を行う形で進んだ。討議制意見調査という性格上、個々の参加者が学習と対話を通してどのように意見が変わるかを見るものであるため、参加者間の合意形成を図るものではなかった。
第4部だけは、地球温暖化問題に向けた行動を促すためのポスターを各自で制作し、それを相互評価したうえで、中グループ(25名)単位で代表作品を1枚ずつ選出し、全体で発表した。
●意見交換は、年齢・性別などを考慮して分けられた、5人単位の小グループで行われた。5つの小グループを束ねた25人単位を中グループとして、ファシリテーターが1名ずつ付いた(全体司会として若松教授)。ファシリテーターは中グループに1名ずつであるため、意見交換の記録は、参加者各自で1人ずつに配られたワークシートに記入することとした。
第1部では、地球温暖化の基礎知識を得るための講演を聴き、「はじめて知ったこと、意外に思ったこと」「地球温暖化が進んで、将来、不安に思うこと」「わからなかったこと、もっと知りたいと思ったこと」などを意見交換した。
第2部では、京都議定書で日本が約束した、2008〜12年の温室効果ガス排出量の1990年比での6%削減を実現するために、環境省が音頭をとる国民プロジェクト「チーム・マイナス6%」(電気の使い方、温度調節、水道の使い方、自動車の使い方、買い物とゴミ、商品の選び方などでCO2を減らす)などに関する講演を聴き、「やってみたいと思う行動」「やってみたいけれど、難しいと思われる行動」「自分なりに工夫して持続している行動」などを意見交換した。
第3部では、政府、自治体、企業、労働組合、商店街などが実際に制作しているポスター、クールビズやエコバッグといった取り組みなどの紹介を聞き、批評したうえで、効果的な広報の方法について意見交換した。
第4部では、第1部や第2部で学習したこと、第3部で考えた効果的な広報の方法を活かして、参加者各自でポスターを制作し、小グループで相互評価したうえで1枚を代表に選び、さらに小グループ代表の5枚から中グループ代表を1枚選んで、最後にセレモニー的に発表してフィナーレとなった。
●ワークショップの詳細については、主催者に帰属するものであるため、分析も交えた報告書が発行されるのを待ちたい。
ここでは、簡単に感想を述べておきたい。
まず、参加者についてであるが、100名もの人が集まり、1日かけて学習と対話が行えたというのは、正直なところ感動的であった。それも、地球温暖化問題への熱意を持つ活動家たちではなく、謝金目的も含めたごく普通の市民が集まったという光景は、関心と熱意のある市民を集めて行う自治体などの市民参加に慣れた身としては、とても新鮮であった。
次に、そんな多種多様な参加者ではあったものの、熱心にワークショップに参加していたのも、ちょっと意外であった。講演で初めて聞く話が面白かったこと、家族や友人以外の人と公共的な課題を話し合う新鮮さなど、理由はいろいろあるのであろうが、講演の難易度や進行の仕方さえ間違わなければ、無作為抽出でも十分にワークショップがやれることがわかった。
もっとも、2万円の謝金が果たした役割も無視できない。お金を出すかわりに仕事として調査に取り組んでもらうことで、広い範囲の市民の率直な意見が聞けるのであれば、応分のコストをかけるべき重要なテーマに関しては、謝金を出してでも今回のような調査を行うべきであろう。
一方、次回以降の改善点としては、情報提供をもっと多面的に行うことである。今回は、地球温暖化問題への行動の是非、例えば、環境税をどう考えるか、といった対立的な構造のある課題ではなかったが、そういった対立のある課題の場合は、当然、様々な立場・考えの論者の話を聴いたうえで、意見交換が行われることになろう。
●ところで、今回の手法は、あくまで討議制意見調査をヒントにした「調査」である。その意味で、市民同士が合意形成を図り一定の方向性を見出すような手法とは異なる。
しかし、日本では、代表制民主主義を補完するように行われている公募型の市民会議などが、しばしば議会や行政との間で軋轢を起こすように、一部の市民で一定の「結論」を出してしまうことの、民主主義全体としての位置づけの難しさはあるのかもしれない。
その点、今回のような「調査」であれば、議会や行政の側としても、そこで出た「結果」は扱いやすくなる。しかも、思い込みや偏見、勘違いが、多少とも取り除かれたうえでの市民意見をデータとできることの意味は大きい。
今回の調査も、経済産業省の委託で行われており、今後の国の政策づくりの新たなあり方に果敢にチャレンジしたものと評価できる。今回の経験が、省庁の間でさらなる広がりと深みを見せていくことを期待したい。
実際のところ、自治体で言えば「自治体財政」、国で言えば「憲法改正」、国際的な課題であれば「歴史認識」など、市民が学習の機会を得たうえで対話を行い、自治体や国の政府としての判断に活かしていく必要のあるテーマは多い。実は筆者は、そのような「市民の学習と対話の場を創造する活動」を独自に始めたばかりで、上記のようなテーマを視野に入れているのであるが、今回の体験は、討議制意見調査もその大きな手法になり得ることが見えてくるものとなった。
●最後に、あくまで「調査」ではあるが、参加した市民への「学習」の効果も意外と大きかったのではないか。ワークショップから1ヶ月後に行われるという事後アンケートが楽しみであるが、今回のワークショップで触発され、地球温暖化問題に対する行動をできることから始めた人も、結構いるのではないだろうか。かく言う筆者も、その一人である。
小さいながらも「学習」の持続効果も期待できる手法であったように思う。
※なお、DP(Deliberative Poll)そのものは、スタンフォード大学のFishkin教授が考案したもので、登録商標となっており、今回行われた手法は、あくまでDPに「ヒント」を得たものであることを、再度お断りしておきたい。DPの場合、イベントの事前・事後に行われるアンケートで得られる定量的データの比較が重要であるのに対し、今回の手法では、イベントの学習と対話のなかで、個々の参加者がどのように考えを深めるかという定性的データをより重要視したという。
財団法人政策科学研究所ホームページ
チーム・マイナス6%ホームページ
※ 「市民と専門家が対話する会議手法の創造に向けて」、「専門家と対話するワークショップの技法的な感想」、「『市民討議会』をきっかけに参加手法について考えたこと」もご覧ください。
(東京ランポスタッフ・庄嶋 孝広)
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