市民参加・協働のまちづくり
| [書評]市民参加条例をつくろう |
2004/12/8
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●近年、全国の自治体で、自治基本条例の制定が相次いでいる。「自治体の憲法」とも言われる自治基本条例の制定は、自治体と国の関係を見直した、2000年4月の地方分権一括法施行によって始まった。制定時期で構成に違いがあるものの、最近では、自治体の基本理念やビジョン、市民の権利と責務、行政の組織・運営原則や議会の活動、市民参加・協働の仕組み、などが盛り込まれている。
新しい「自治の時代」を象徴する条例、自治体内で最上位にある条例という華やかなイメージがあり、公共課題に関心の高い市民、市民参加・協働を掲げる首長にも人気の条例である。これから紹介する本書には、2004年3月末現在で、18の市区町村が制定済みで、30以上で策定中とある。
●一方、本書のテーマである市民参加条例も、ほぼ同時期から制定の動きが始まり、同じく2004年3月末現在で、19の市区町村が制定済みとある。但し、策定中は10近くということで、自治基本条例に比べると、伸びは緩やかになっている。本書でも指摘のある通り、市民参加条例は、「簡易型の自治基本条例」、「自治基本条例への過渡的な状態の条例」と見られる傾向があり、自治基本条例に人気が集まるにつれ、注目度が落ちているのであろう。
この『市民参加条例をつくろう』(高橋秀行 公人社 2004年6月10日発行 1,500円+税)は、自治基本条例の陰で存在感を失いつつある市民参加条例に光を当て直し、市民参加がきちんと実施されるためには、市民参加条例をきちんとつくる必要があることを力説した書である。
●思い返せば評者も、少し前までは、自治基本条例と市民参加条例は、いずれも自治体行政への市民参加手続について規定する条例であり、自治基本条例の場合は、それにプラスして「自治理念」のようなものを謳うものだと理解していた時期がある。そのため、市民参加条例は自治基本条例に比べて、中途半端なものであると考えていた。
しかし、本書が明らかにしているように、市民参加条例は、文字通り、行政への参加手続を専管する条例であるのに対して、自治基本条例は、行政への参加だけでなく、NPOと自治体といった団体間の協働、コミュニティへの参加、はては議会への参加といった、もっと広い射程を持っていることになる。つまり、自治基本条例は、自治体に関わる様々な主体間の関係を明らかにするとともに、その自治体内にある参加や協働のルール(市民参加条例など)の見取り図となる役割を持つのである。
●では、いっそのこと自治基本条例を充実させて、行政への参加もNPOとの協働も、あらゆることを一本の条例にまとめてしまえばよいではないか、という考えも出てこよう。しかし、本書は、自治基本条例で個々の参加や協働の細かいルールを規定するには無理があり、仮に行えたとしても内容が多すぎて使いづらい条例になってしまうと指摘する。
実際に、これまでは、自治基本条例をつくれば市民参加条例はいらない(またはその逆)、という考えで条例づくりをしてきた自治体がほとんどであり、自治基本条例における行政への参加手続の規定は、実効性が十分にあるとは言えないものばかりであるという。
●もっとも、市民参加条例を選択した場合でも、十分に実効性のある参加手続が規定できているとは言えないと、著者の評価は厳しい。著者の言う「実効性」とは、行政への参加手続の採用にあたって、行政の裁量の余地が働かないようになっていて、担当職員のやる気などに左右されず、市民に必ず保障されるよう、参加の仕組みが「制度化」されている、ということである。
また、それだけの効力を持つ意味でも、要綱や指針ではなく、議会によって議決された条例である必要がある。さらには、条例では規定をあいまいにし、詳細は施行規則に委ねるという方法も、市民の使い勝手から見て「否」であるとはっきりと述べている。
●そこで、本書の中心部分では、制定済みの市民参加条例の分析をもとに、「実効性のあるメニュー型市民参加条例をつくるための8つのポイント」を挙げている。
ここで言う「メニュー型市民参加条例」とは、参加の理念規定や各主体の責務規定が中心で、参加の手法となると簡単なものが挙げてあるだけという「シンプルな市民参加条例」に対置されるものである。8つのポイントにも含まれてくるが、「メニュー型市民参加条例」としての要件を満たすには、一方で市民参加の対象となる行政活動(計画の策定や条例の制定、大規模な施設の建設等)を列挙し、他方で市民参加手法のメニューを列挙したうえで、どの行政活動のときにどの参加手法が採用されるという対応関係の基準(マッチング・ルール)を明らかにすることである。
なお、8つのポイントとは、下記のようなものである。
ポイント1:市民の参加権が明記されているか
ポイント2:市民参加の対象となる行政活動をどこまで具体的かつ広範に規定しているか
ポイント3:市民参加手続(市民参加の方法)のメニューをどこまで網羅的に列挙し、条例中に明記しているか
ポイント4:市民参加の対象と手続(方法)を組み合わせる「マッチング・ルール」を条例でどこまで厳格に明記しているか
ポイント5:市民参加手続の実施予定、実施状況の公表規定があるか
ポイント6:市民参加条例の実施状況、進捗状況をチェックし、点検評価の結果、勧告・提言を行う第3者機関の設置規定はあるか
ポイント7:市民の自主的・自発的な政策提案を受け止める「市民政策提案手続制度」が設けられているか
ポイント8:住民投票の実施についての住民発議・住民請求の規定はあるのか。常設型住民投票条例の根拠規定はあるのか
●上記の8つのポイントは、制定済みの複数の市民参加条例から、最先端の要素だけを抜き出したものであるため、まだ全ての要素を満たす市民参加条例は登場していない。しかし、本書を参考にすることで、著者のメガネにかなった市民参加条例もそのうち出てこよう。
但し、この8つのポイントは、あくまで条文からの分析であって、実際にその効果が確認されているわけではない。
例えば、ポイント5の「市民参加の実施予定の公表」というのは、埼玉県の「宮代町市民参加条例」(2004年4月1日施行)のものであるが、町が年度当初に市民参加を実施する事業内容、市民参加の方法、実施時期その他の必要事項を記載した市民参加計画を公表するというものである。市民にとっては、今年度はどの計画づくりや条例づくりに参加しようという予定を立てることができる。この市民参加計画によって、実際に市民の参加が促進されるのか、注目したい。
また、ポイント7の「市民政策提案手続制度」は、埼玉県の「和光市市民参加条例」(2004年1月1日施行)のものであるが、18歳以上の在住市民10人以上の連名によって市に政策提案ができるというものである。参加の機会を設けるのは行政であるのが一般的ななかで、市民の自発的な政策提案が公式な仕組みとなったのである。市民からの政策提案がどの程度行われ、市がそれをどのように処理するのか、これまた注目である。
宮代町ホームページ 市民参加のページ
和光市ホームページ 市民参加のまちづくり
●また、市民参加条例や自治基本条例の策定現場を見ると、先行の条例を比較分析したうえで、例えば、あらゆる市民参加手法をフルセットで自分の自治体の条例に盛り込もうとする動きも見られる。しかし、都市部か農村部かというだけでも地域特性は異なるため、策定にあたっては、自分の自治体の地域特性、例えば、行政への参加における地縁組織(自治会等)の役割などを知り、また、これまでどのような市民参加や市民活動が行われてきたのかを整理して、臨む必要がある。
このあたりは、本書でも、市民参加条例は十分な市民参加の経験の積み重ねのうえで制度化すべきものであると、最後にクギを刺している。
●本書のテーマは、市民参加条例であるが、市民参加条例で、行政への参加手続をきちんと定める一方で、自治基本条例も制定すべきであることも、本書の主張である。
現在、自治基本条例と市民参加条例の両方を制定している自治体はない。本書が指摘するように、これまで二者択一の見方で捉えられてきたからであろう。但し、評者の知る限りでは、2004年10月7日に公布された(2005年4月1日施行)、神奈川県の「大和市自治基本条例」には、第18条4に「市民の参加について必要な事項は、別に条例で定める」とあり、今後、市民参加条例も設けられることになろう。
また、行政への参加手続の規定を市民参加条例に譲るとすると、自治基本条例の目玉は何か、ということになってくる。評者は、市民(在住、在勤、在学、在活動、未成年)、NPO、コミュニティ、事業者、首長、他の執行機関、職員、議会といった、自治体に関係する主体の関係を、その自治体がめざす自治のあり方に照らして再構築することであると考える。いささか大きな視点での議論になるわけだが、実際の自治基本条例の策定現場、特に学識経験者と公募市民によって構成される少人数の審議会等を見ると、こういった大きな視点での議論が十分に行われず、事務局(行政)が提示した構成案をもとに、細かい点ばかり議論している例もある。
本書が影響力を持つようになり、市民参加条例が、本来の領分である、行政への参加手続の規定を専管的に獲得するようになると、今度は自治基本条例の方が、しっかり存在意義をアピールしなくてはならない状況も訪れるかもしれない。
大和市ホームページ 大和市の自治基本条例策定に関するWEBサイト
●最後に、本書の著者である、高橋秀行・岩手県立大学総合政策学部助教授には、2001年9月に開催した、カレッジランポ2001-J「市民公募制度は市民参加の新しい扉を開くか」でコメンテーターをお願いしたことがある。条例文の分析だけでなく、条例を策定する過程、特に市民参加のプロセスに大変お詳しい方で、他の著書である『市民主体の環境政策 上・下』(公人社)や『協働型市民立法 環境事例にみる市民参加のゆくえ』(公人社)などでは、環境基本条例、環境基本計画、その他の環境関連の条例などを対象に、その策定過程における市民参加について、丁寧な調査をされている。
その高橋先生らしく、本書にも、「第7章 市民参加条例をどのようにしてつくるべきか」が含まれている。公募市民会議の手法的な側面を調査している評者としても、「行政主導型」(庁内の検討チームなど)、「検討委員会型」(策定委員会に少数の公募委員が参加)、「全員市民公募委員型」、「市民・行政協働型」といった、高橋先生の分類は興味深い。高橋先生は、公募によって集まった市民と、同じく庁内公募された行政職員が、条例素案づくりの段階から一緒に作業する「市民・行政協働型」が、行政職員も受け入れられる、現実的で実効性のある条例をつくるうえでは、最も有効であるとされている。
●本書は、本文が86ページ、資料編を入れても106ページというコンパクトな本であり、また記述も大変わかりやすい。実効性のある市民参加制度を各自治体で構築していくためにも、条例の内容も策定プロセスも射程に置いた本書をお読みになることを、強くオススメしたい。
※ 「[書評]まとまらない意見をまとめる合意形成の技術」、「[書評]まちに森をつくって住む」、「[書評]市民会議と地域創造」、「[書評]市民自治の憲法理論 <憲法記念日に読む一冊>」もご覧ください。
(東京ランポスタッフ・庄嶋 孝広)
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