市民参加・協働のまちづくり
| 福岡市のコミュニティの自律経営に向けた改革 |
2004/8/31
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●筆者は福岡県の出身である。この夏に帰省した折に、福岡県下のいくつかの自治体の注目される動きを取材した。
ここでは、福岡市が今年4月より取り組んでいる、コミュニティの自律経営に向けた改革に関する取材結果をお伝えしたい。
取材は、2004年8月19日(木)に行った。まず、午前1時〜2時10分、福岡市役所にて、市民局コミュニティ推進部コミュニティ推進課のお話を伺った。その後、赤坂公民館に場所を移して、赤坂校区自治連合会と中央区役所地域支援部地域振興課のお話を伺った。
●コミュニティ推進課からは、町世話人制度の廃止と自治協議会の設立を主とする、コミュニティの自律経営に向けた改革の概要を伺った。コミュニティ推進係長の駒田浩良さんを中心に、コミュニティ推進課長の椋野清彦さん、公民館係の上薗久美さんが対応してくださった。
●今回の改革は、2002年7月より行われた「福岡市コミュニティ自律経営市民検討委員会」(自治会長、NPO、学識経験者、市職員など13名で構成)が、2003年3月にまとめた提言がもとになっている。2003年8月19日に市長より発表され、区役所単位で説明会を行った後、2004月4月より実施された。
●福岡市では、従来、町世話人制度と公民館が、行政と地域を結ぶパイプ役を果たしてきた。
町世話人制度は、戦後の食糧配給などに端を発するもので、1953年に制度化され、非常勤特別職の公務員として、地域において行政の連絡事務などを委嘱されたものである。約2,500〜2,600人が委嘱され、1人の町世話人当たり約300世帯を担当し、担当する1世帯当たり月額160円の報酬があった。そのため、毎年12億円の経費が発生していた。今回の改革とともに廃止されたが、ちょうど50年間存続したことになる。
町世話人の仕事は、広報に関する事務(ふくおか市政だより−月2回、ふくおか市議会だより、ふくおか市生活ガイド−2年に1回など)、防災に関する事務(災害発生状況調査など)、衛生に関する事務、調査に関する事務(国勢調査ほか)などであった。これらの事務を行うために、最新の世帯情報が載った名簿が、市より提供されていた(かつては、世帯全員の情報であったが、個人情報保護の流れのなかで、世帯主のみの情報に変更されていた)。
他の自治体であれば、自治会・町内会に委託している事務を、町世話人という個人に委嘱してきたのは、福岡市の特徴であった。別の言い方をすると、福岡市では、市と自治会・町内会には、事務上の直接的なつき合いはなかった。
●それが、2004年4月から、町世話人制度を廃止して、自治会・町内会を新たにまちづくりのパートナーと位置づけ、とりわけ、小学校区単位の自治会・町内会や各種団体(交通安全推進委員会、体育振興会、女性協議会、青少年育成連合会、ごみ減量・リサイクル推進会議、献血推進協力会、衛生連合会、自主防災組織、老人クラブ連合会、子ども会育成連合会、防犯協会、母子福祉会など)による「自治協議会」と「共働」(字は「協働」ではない)していくことになった。
「自治協議会」を設立した場合、それまで各種団体に対して個々に出ていた9種類の補助金(合計で約100万円)が一本化されて渡され、「自治協議会」で地域の実情に合わせて使途を決められるようになった。但し、従来からの9事業については、必ず行わなくてはならないことになっている。その他、自主的に取り組む事業の経費、また、会計処理などのため事務員を雇用する事務経費も申請できるようになった。校区の人口規模に応じて上限が異なるが、「自治協議会」になると、200〜300万円の補助金が使えるようになった。2004年8月現在で、144ある小学校区のうち113で「自治協議会」が設立されている。
「自治協議会」が民主的で透明性を持って運営されるように、ガイドラインとして以下の6つのことが求められ、規約にも盛り込むことになっている。(1)幅広い年齢層の住民や各種団体の参加による組織構成、(2)役員の民主的な選出、(3)協議による意思決定、(4)自主財源の確保、(5)事業計画・予算作成および執行の透明性、(6)会計処理の透明性、である。
●市のコミュニティ支援体制も強化され、区役所に地域支援部が設けられ、係長クラスの職員が校区担当職員として、1人当たり3〜4校区を受け持って支援(補助金の使途のアドバイスなど)を行っている。また、1952年よりに地域に整備してきた公民館(2004年度に144の全校区に配置完了)を、教育委員会の管轄から区役所の管轄に変えて、コミュニティづくりの拠点としての位置づけを高めることになった。「自治協議会」の事務局も、公民館に設けられている。
また、自治会・町内会のほか、NPOやボランティア団体も申請できる助成金制度として、「はじめの一歩事業」(限度額10万円)、「やる気事業」(事業費の3/4以内で限度額50万円)も設けられた。
●駒田さんによれば、今回の改革の背景は3つあるという。
1つめは、町世話人に依頼してきた仕事が、例えば、選挙の投票入場券の配布を郵送に切り換えるなど、その量が減ってきたことや、町世話人の8割が単位自治会・町内会の会長を兼任しており、住民の自主組織の長が行政の一部を担うことの問題が指摘されてきたことなど、従来から制度に内在するものである。
2つめは、全国的に起こっている地方分権、さらには自治体内で地域に分権していくという流れである。
そして3つめは、これまでDNA運動(「できる・納得・遊び心」を基本精神に、職員が自らの仕事の価値と意味を認識し、課題を見つけ自ら解決に取り組む運動)など、市役所に民間経営の手法を取り入れてきた市長が、その政治信条に基づいて強く打ち出した政策であったことである。
効率性を重視する行財政改革と、時間のかかるコミュニティの自律経営とは一見矛盾するようであるが、「地域分権」という大きな理念のもとでつながっているという。
●次に、改革によって生まれた「自治協議会」の実際の姿を見るため、中央区にある赤坂校区に伺った。赤坂校区自治連合会会長の中嶋驪gさん、校区担当職員である地域振興課長の渡辺輝夫さんがお話をしてくださった。
●中嶋さんは、生まれ育ちは赤坂校区であるが、その後は仕事で転勤生活を送っていた。退職して地元に戻ってきてから、自治会に携わるようになったという。町世話人や自治連合会会長を8年間務めてきた。
赤坂校区は、福岡市の都心であり、9,500人いる人口の75%がマンションに住んでいる。当然、1人暮らしや転勤族が多い。お年寄りでも、裕福なマンション住まいをする人は、自分で趣味の活動に参加しているため、公民館活動などには出てこないという。マンションが建設されるとき、自治会に入ることを要請しているが、加入するのは義務でないため、強くは言えないのが実情だ。
そんな土地柄では、自治会活動や各種団体の活動で汗を流す人が少ないため、必然的に同じ人がいろいろな役職を兼任するようになる。いろいろな会で同じ顔ぶれになるので、それが何の会合だったかわからなくなってしまうことさえあるという。仕事をやってくれる人がいれば大歓迎で、「これは」という人がいれば、会計や副会長といったところから役に就いてもらい、次第に定着していってもらうという努力もしているそうだ。
地区の人口自体は増えているものの、子どもの数は増えない。赤坂小学校は児童数が200人。隣の大名小学校にいたっては100人くらいで、児童だけでは運動会ができないので、保護者も一緒になって参加している。そのような少子高齢化の現状もあり、世代間交流のため、公民館と隣接の保育所との合同企画などをやりたいと考えているそうだ。また、青少年育成部(後述)に属する「親父の会」に、地域の若い人たちがさらに参加してくることを期待しているという。
●さて、「自治協議会」である。もっとも、赤坂校区では、「自治協議会」という名前は使用せず、従来からの自治会連合組織の名称であった「自治連合会」を、引き継いで名乗っている。
中央区では、14校区のうち9校区で「自治協議会」が設立されている。事務所をすでに持っているのは、4校区(但し、うち1校区は「自治協議会」には未移行)。赤坂校区では、公民館に事務所があり、事務員を雇用して、土・日・祝日を除く、午前9時30分から午後4時30分の間、開室している。
「自治協議会」となったことで、総務部、福祉部、スポーツ文化部、青少年育成部、環境部、防犯防災部、男女共同参画部といった専門部が設けられ、それぞれの部に各種団体が入る形になった。いまのところ、補助金の使い道は従来とそれほど変わっていない。もともと、事業は補助金だけで行っていたのではなく、自治連合会が会費(1世帯当たり60円)として集めた自己資金も充てていたものであるため、そんなに配分が変わるものではない(総予算は約940万円、うち会費は280万円、市補助金は270万円)。今年の予算は、従来の使途をもとに按分したという。今年は、事務所を設けたばかりでもあり、これまでの書類を整理して、従来の仕事を検証することになろう、とのことであった。
定例会は2ヶ月に1回開催し、執行役員(会長、副会長2名、会計)と議題に関係のある部長が出席する。従来の月1回を2ヶ月に1回に減らし、土曜日の午前中に行うことで、勤め人でも参加しやすいようにしているという。年1回の総会には、部長も全員参加して、予算と事業計画を決定する。
なお、2004年度の支出に占める事業費は426万円で、その内訳は、福祉部63万円(高齢者実態調査、敬老会祝事支援、集団献血促進事業、健康づくりなど)、スポーツ文化部67万円(スポーツ大会、ふれあい餅つき、ウォーキングなど)、青少年育成部102万円(ほたるウォッチング、地引網、ペーロン大会、どんと焼きなど)、環境部50万円(環境美化、清掃整備、ゴミ減量リサイクル推進委員の研修・視察など)、防犯防災部79万円(夜間パトロール等)、男女共同参画部65万円(人権尊重推進協議会活動、共同参画に関する研修・企画など)などである。
●筆者は、福岡市には、1986年から1993年まで(小学6年生から高校3年生まで)在住していたが、なにぶん子ども時代であったので、自治の仕組みがどうなっているとか、どの人が町世話人だったとかいったことは、当時は意識していなかった。もっとも、途中で転校して住み始めたわけだが、すぐに子ども会の活動にも参加して、ソフトボール大会に出たり、九州場所に来た力士との交流事業に駆り出されたり、地域の運動会に参加したりしたので、子どもながら(いや、子どもだからこそ)自然と自治活動には参加していた。
ともあれ、現在在住しているわけでもないので、今回の改革が、実際の市民生活にどのような影響を及ぼしているのかは、正直判断できない。今回、中嶋さんにお話をお聞きした範囲では、一本化されて渡されるようになった補助金の使途も、移行1年目ではさしあたり従来と変わったといったことはないらしい。「自治協議会」が新設されたとは言え、それは従来の各種団体を集めたものであるし、補助金が一本化かつ増額されたとは言え、各種団体が行っていた9事業への配分は必須であるため、劇的な変化は起きにくいのかもしれない。赤坂校区の話ではないが、ボランティア団体が「自治協議会」に入りたいと言ったが、補助金の配分に変化が生じるためにもめたという校区もあり、配分を変化させることの難しさもあるだろう。
コミュニティの自律経営の「成功」「失敗」の基準をどう持つかは難しい話だが、市区町村と同様、コミュニティも地域住民の満足度が高まるようなお金の使い方ができているか、という視点で評価されることは必要だろう。もちろん、住民はそれぞれに自立した家計を営んでおり、公共サービスがどうあれ生活は変わらないと思っている住民も多い。それが、公共的な課題への無関心につながっている。
しかし、例えば、高齢者や障害者の外出を手助けするようなサービスが、地域の情報を持っている自治会・町内会や各種団体と、新たなノウハウを持つNPOやボランティア団体が協力することで実現・向上できるとすれば、地域住民の満足度は高まる結果になるだろう。公共的なお金を地域のいまより多くの人が喜ぶように使うということを、「自治協議会」は使命にする必要があるのではないだろうか。そのためには、個人にせよNPOにせよ、新しい人材が力を出し合えるよう、意欲や関心を持つ人が参加しやすくなるような状況を整えていく必要がある。
改革にあたって各区役所で行った説明会では、町世話人としての既得権を失うことへの反発はなかったが、むしろ、行政が地域に仕事を押し付けて逃げているのではないか、といった意見が多く聞かれたという。行政リストラに伴うそのようなねらいもないとは言えないが、地域の状況をよく知る住民の強みを活かすようなコミュニティ経営に向けた、住民のがんばりに期待したい。
福岡市ホームページ
(東京ランポスタッフ・庄嶋 孝広)
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