市民参加・協働のまちづくり
・12月議会で継続審議となっていた多摩市自治基本条例案が、3月議会において修正可決された。可決された修正案は、総務常任委員会によって作成された。
・多摩市の自治基本条例への取り組みは、2000年11月、市の呼びかけに応じた市民によるワークショップの形で始まった。2001年春には、ワークショップは「多摩市市民自治基本条例をつくる会」(以下、つくる会)の形をとり、市長とパートナーシップ協定を結んで、条例案の提言に向けて本格的に動き出した。9月には職員のプロジェクトチームも加わって、11月には条例検討の中間報告会を行い、2002年3月には条例案の報告会を行った。
ところが、折しもその年の2月、自治基本条例づくりを進めてきた市長が収賄容疑で逮捕され、4月に新しい市長が選出された。つくる会は、6月に市長に「多摩市市民自治基本条例案提言書」(以下、市民提言案)を提出したものの、提言を受けて作成されるはずの条例素案は1年以上示されず、ようやく2003年8月になって「多摩市自治基本条例(素案)」(以下、条例素案)が示された。
しかし、その内容は、いくつかの重要な点で、市民提言案と大きく隔たるものであったため、つくる会との意見交換を重ねて、5回にわたり修正が行われた。市民提言案が主張した、条文全体にわたる「ですます調」の採用は反映されたが、「市民自治基本条例」という名称、「最高規範」であることの明記、「市長を設置する」との規定などは通らなかった。
このようにして、12月議会に提出された条例案であったが、慎重な姿勢を示した議会により、継続審議となっていた。そして、この3月議会で、総務常任委員会により作成された修正案が、本会議でも可決され、3年以上にわたる時間を経て、多摩市自治基本条例が制定された。
・条例案が議会に提出されるまでの過程は、市民と行政の協働作業ではあったが、議会は蚊帳の外であった。にもかかわらず、条例案には議会に関する規定も入っているため、つくる会・代表の大津山壽久さんによると、議会には「けしからん、議会の規定は削除せよ」という反応もあったという。そのため、行政とのやりとりで精一杯の妥協をした大津山さんも、議会審議によって、条例案の内容がさらに市民提言案から隔たるものになるのでは、と心配していたという。
しかし、実際の展開は、正反対であった。総務常任委員会で作成された修正案では、数々の修正が行われ、そのなかで、市民提言案に盛り込まれていた「最高規範」や「市長の設置規定」が復活した。大津山さんは、「市民が破れなかった壁を、議会が破った」と驚きとともに評価する。「市長の設置規定」などは、市民にも行政職員にも遠慮があって結局踏み込めなかったが、「議会だからこそ盛り込むことができた」と感心した様子であった。
・この修正劇の立役者となった、市議会議員の岩永ひさかさん(多摩・生活者ネットワーク)にも聞いた。
当初は自治基本条例に対して否定的であった議会を前に、「気に入らないのなら議会で修正しよう」と他の議員に呼びかけ、所属していた総務常任委員会への修正案作成の委任を取り付けた。1期目・2期目の若手が主体の総務常任委員会は、自治基本条例への理解もあり、市民提言案にあったより踏み込んだ規定への修正にも柔軟であった。委員会で議論を深めた若手議員が会派のベテラン議員を説得したり、委員会で唯一のベテラン議員だった人物が保守系会派をとりまとめたりして、修正案への賛成を固めていった。「まさに合意形成の過程であった」と岩永さんは振り返る。
また、総務常任委員会として、つくる会代表・副代表の意見を聞いたり、学識経験者の話を聞いたこともポイントであったという。各議員が個別に有権者の要望を聞いたり、勉強をしたりするのではなく、議員が同じ場に揃って意見交換する場を持ったことで、議員全体の自治基本条例への理解が高まり、議論していくことができたという。
・前市長の辞職というハプニングから、二転三転した策定経過だったが、最後は議会による修正可決(しかも、市民提言案の方向に沿った形での)という、ドラマの脚本家にも書けないようなビックリの結末になるとは、正直恐れ入った。
可決された条例について、つくる会・代表の大津山さんは、「もちろん100%満足の行くものではないが、ともかく条例として成立したことが重要で、推進の過程で直していけばよい」と感想を述べる。そして、市民だけではなしえなかった修正を実現した議会の役割を、改めて見直した模様だ。それだけに、市民提言案の内容をつまみ食いして都合よく利用し、「反対のための反対」に終始した一部会派には、議員としての態度に疑問を投げかけている。
27歳という若さで今回の重責を果たした、市議の岩永さんも、議会の役割というものを、身をもって噛みしめた様子だった。岩永さんは、市議になる前から、つくる会のメンバーとして条例づくりに関わっていた。しかし、最終的に条例を議決する議会には、やはり提言をする市民とは異なる大きな責任があるのを感じたという。条例を議決するということは、「議会が条例をつくる」ことに等しいという。確かに、今回は実際に、条例を議会の意思で修正し、市長が意図したのとは違う条例を「つくった」のである。
・この記事を書くにあたり、筆者は市の担当課にも修正可決の感想を聞こうと思ったが、考えてみると、行政案がそのまま通ったものではないし、一担当者に議会が決めたことをどうこう言えるはずがないので、聞くのをやめた。条例というのは、議会を通して表現される「市民意思」に他ならないことに、今回の件を通して、筆者も思い当たったわけである。
ここ数年、条例づくりが、市民と行政(市長)の協働で行われることが増えてきた。しかし、市長が提案するにせよ、最終的に議決という形で条例を「つくる」のは議会である。そのような意味で、条例づくりにおける議会と市民の協働が、今後はもっと取り組まれてもよいだろう。
・ただ、その場合に、岩永さんが言うことを気に留めておく必要があるだろう。すなわち、「議員個人と市民の協働」ではいけないということである。これは、議員は最終的な議決に加わる者として、個々の市民や団体と約束事をして、行動を制約されるべきではないということであろう。確かに、もし約束に縛られるとすれば、今回のような議員間での柔軟な合意形成も不可能となってしまう。
岩永さんの言葉を、筆者なりに解釈すれば、議員は、議決に加わることを通して、市民全体に責任を負う立場にあり、最後は、議員としての良識で、市民全体にとって最もよいと思う判断をする必要がある。従って、議員が、つくる会のような場に出るとしても、それは情報収集や意見交換のためでなくてはならず、決定に加わることがあってはならない。また、市民との協働があるとすれば、議会全体として行う形になるのだろう。
今後、議会と市民の協働という、新たな関係が生まれることが望まれる。その際には、議員も市民も、付き合い方についての心構えを、いま一度考えてみる必要がありそうだ。
多摩市ホームページ 多摩市自治基本条例可決
多摩市ホームページ 市議会だより 4月25日号(161号) p1(自治基本条例制定) p8(議案に対する各会派の態度)
岩永ひさかさんホームページ 毎日の活動報告 (2004/04/19[月]をご覧ください)
(東京ランポスタッフ・庄嶋 孝広)
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