基調講演
建築基準法の一部改正法案の問題点 2002.04.06
小泉
秀樹(東京大学大学院助教授/練馬まちづくりの会)
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今回の建築基準法改正はどのような改正なのか、その問題点を「建築基準法改正のポイント」という資料をベースに話を進めていく。
建築基準法や建築関係の専門的な用語についてあまり明るくない人もいると思うので、用語解説を交えながら話をしていく。
今回の改正は建築基準法等の改正ということで、建築基準法だけではなく都市計画法などの改正も行われる。後ほど林先生の方から話があると思うが、都市計画法改正案では提案権を住民に認めるようにすることなど、ベストとは言い切れないが、ないよりはあった方がよい、ということで評価できる点もないではない。そういう意味で今回の法改正の全てが悪いというわけではないが、建築基準法等改定案について、「集団規定」あるいは「形態制限」と呼ぶ、建築物の形を決める規制とかルールがあるが、そこの部分が非常に大きく改正される。この部分に少し問題があるのではないか。
集団規定というのは具体的にどのようなものかというと、資料にある通り、建ぺい率・容積率・斜線制限といったいろいろな形での建物の形について規定していることである。 |

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建ぺい率とは、敷地に対して建物を上から見たときに覆っている面積の割合のことをいう。例えば100uの敷地に対して、60uの建物が建っていれば、建ぺい率が60%ということになる。今回の改正でおもしろいというか、すごいと思ったのは、第1種住居専用地域でも今度は80%という値もメニューとして選択可能にするということである。この80%という数字をどの程度のことをいうかイメージしてみると、例えば10m×10mという敷地があったとして、80%まで建築可能ということは大体9m×9mまで建てられるといえる。各辺に共通にスペースを空けたとして、壁から50cmずつしか隙間がないと言える。ほぼ敷地めいっぱいまで建てる事に等しい。今回の改正では第1種住居地域という、住宅で主に構成すべき住宅地でこういう制限を許すということになる。こういった密度で建ってしまう住宅地というのはちょっと想像がつかないが、とにかくそういうことになってしまう。
次に、容積率というのは、かなり単純に言ってしまえば今の建ぺい率に建物の階数分をかけた値ということになる。例えば先ほどの60%の建物が3階建てだったとしたら、60×3という事で180%の建物になる。住宅地を想定して、敷地ごとに工夫しながら、各建物の日照が確保されるように考慮して建てていくと大体200%が限界だといわれている。200%と聞くと2階建てくらいの建物が建つ値ではないかと直感的に思ってしまうが、私(小泉)が住んでいる光ヶ丘団地もだいたい200%の値である。実際どのような建物が建っているかというと、25階の超高層の建物や14階くらいの中高層建物もある。中には一部5階建てにする等の工夫をしている建物もあり、そのようにして十分に空地を確保すると共に各戸に十分に日照が確保されるような工夫して建てても、ようやく200%という値である。
ちなみに街区単位が大体100mくらいの大きな街区で、8階建ての建物が中庭を囲み、1・2階部分に店舗が入っている囲み型という建て方を使ったパリの例でも容積率は250%〜300%。
結局何が言いたいかというと、住宅地で仮に1・2階に店舗が入ることを想定しても、普通の住宅地としては容積率は300%が限界。そういういろいろなことを検討してきた経緯があって、例えば第1種中高層住居専用地域は1・2階部分には店舗が入っても良いけれど、3階以上は住宅しかつくってはいけないですよ、という地域であるが、そこでは今までは法律上は容積率300%までしか指定できなかった。それは、いろいろな検討をしても300%以上の容積率は住宅地としては必要なかったから。今回の改正では400%とか500%といった値でも設定できるようになっているが、これはマンハッタンのような超高層建物の街並みをイメージしている。それは普通に生活して子どもを育てるような環境ではない。家には寝に帰るだけのようなオフィス街のイメージ。今までの法律でも商業地ならばそのようなイメージの地域にすることも可能だったのに、かなり良好な住宅地だった第1種中高層住居地域などでそのような地域を作ることを可能にすることにどのような合理性があるのか理解に苦しむ。
斜線制限とは道路からの距離であったり、隣の建物との距離から建物の建てられる高さを、斜めにカットする形で制限する規定のことである。住居系の現行の規制というのは図の左側である。これを今回の改正では右の図のようにしようとしているのであるが、これは現行の商業系と同じ形であることが良く分かると思う。住居系の用途地域で、今まで商業系でなければ建てられなかった建物を建てても良いことにしようとしている。商業系と住居系では本来確保するべき日照の条件等は違うはずなのに、日照・採光といったものは考えなくてもよい、という住宅地を認めることになる。 |

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とはいっても、これまで挙げた改正点は、自治体の都市計画として指定が変更されない限りは効力を持たない。自治体が都市計画決定しようとする時、住民が大きな声を出せばこのような値が適用されることは少ない。難しいかもしれないが、少なくともブロックをしてこの値を使わせないようにできる可能性はある。
ところが、一番問題と思われるのが次の総合設計制度の問題である。
総合設計制度とは現行では左側の図のように平べったい低層の建物しか建てられなかったところに、足元に公園のような一般の人に公開された公開空地を設ければ、容積率・斜線制限・高さ制限等を緩和して、高いタワーのような建物が建てられるようにするという制度のこと。 |

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今までは周辺では容積率や斜線制限を一定の範囲で抑えましょう、という地域のまちづくりのルールがあった中での非常に特例的な扱いだった。だから、手続き的にも特定行政庁(自治体と思ってもらってよい)による許可制度で、かつ、建築審査会の合意が得られなければ許可ができないという2段構成の制度だった。本来制度ができた時の主旨としては、こういった特殊な緩和をするのだから、地域に積極的に貢献して、これなら建ててよいですよ、とみんなが認めるようなものについて審査会で審査をした上で許可をする、という制度として法律上は組み立ててきた。ところが日本の建築行政の文化というものはなかなかそういった考えになじまずに、なかなか良い・悪いの判断ができなかった。そのため、技術基準というものを作成して、これに沿っていれば許可しましょう、ということになってしまった。ところがこの技術基準というものは、例えば東京都などでは、ほぼ都全体で一律同じ基準。そうすると、どこへ行っても同じような超高層の建物やオフィスが建てられることになってしまう。技術基準というものが非常に画一的であるために地域性を反映しない。結局地域に貢献するような建物が実質的にあまり建ってこなかったという経緯がある。その結果地域住民から請願とか陳情といった非常に強い反対運動が起こった。最近そういった反対運動が激しいということで、東京都や区などであまり反対運動が激しい場合は技術基準には適合しているが地域性は反映していないということで、業者に対してプランの見直し・変更を求める等許可を留保するようになってきた。
私たちはそのような制度はおかしいのではないか、ということを学術的な面も含めていろいろな機関に対しアピールしてきたし、このような動きは本来あるべき方向に近づいてきたと思っていたのに、今回の法改正ではこれを全て撤廃して緩和をできるようにしましょう、という制度を作ろうとしている。その背景には都などがなかなか許可をおろさなくなってきた、緩和の許可を受けた建物が短時間で建てられない、といった声が建設業界のほうから上がってきたということがある。
今回の改正ではこの面倒な手続きを全て取っ払ってしまって、建築確認制度に移行しようとしている。これは、法律に適合さえしていれば行政は口出しすることができない、確認制の手続き方法。そういう制度のもとで特例的な緩和を運用する。
とはいっても緩和を認めるためには一定の基準が必要であろうということで、現在の技術基準に代わるものとして一定の基準を政令で定めようとしている。このようなことを政令で定めるということはまたありえない話である。こういった特例的な緩和を建築確認ベースでやる、ほとんど自治体行政には文句のつけようがない、にも係わらず基準が政令で定められるということは、全国一律の基準になるということで、その地域にその建物があっているかいないかということを自治体が判断する余地が場合によっては一切なくなる。地域にあったまちづくりをしようという住民の活動があったとしても、それを汲んだような建築物の誘導といったことが行政には一切できなくなる。
しかし、仮に今回の改正がそのまま通ったとしても、まだ政令で定めるという段階があるので、その中で自治体の条例に委任するという事項を設けることができるかもしれないので、まだそこでがんばれば何とかなるかもしれないが、いずれにしても今国で考えているような改正案は非常に業者にとっては分かりやすい、堅い基準である。画一的な技術基準を設定しておいて、それに合致していれば速やかに緩和をして、建物を建てることができる。これが今回一番問題ではないかと思っている。
どのような建物が建つかということは、後ろのほうにイメージ図が載っているが、このようなイメージになる。また、関連するような図として「建築基準法等の一部を改正する法律案の概要」という冊子の後ろの方にある「斜線制限の適用方法の合理化」という図でも分かると思う。これは容積率の緩和を想定していない図なので、この右側のスレンダーな細い建物の高さが1.5倍になっていることを想像してほしい。 |

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最後に日影規制についても緩和しようとしており、今までは例えば第1種中高層住居地域などでは測定点が4mだったのが、6.5mでもよいようにしようとしている。こちらの方もエリアを指定しない限りは現行の規制のままなので、指定を変更しない限りは問題はおきない、という感じである。
という感じが大まかな今回の改正のポイントの話である。 |
| 《記録:東京ランポ事務局・深田 祐子》
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