パネルディスカッション第1部

A地域・自治体のまちづくりから見た改正法案 2002.04.06

井上 赫郎(都市プランナー)


 まちづくりのコンサルタントとして仕事をしているが、数年前国立で大規模マンション(計画高さ44m)に対する反対運動が起こり、自身の母校のすぐ裏手であったということもあり、縁あってこの問題に関わることになった。署名も5〜7万といった数が集まるほど大規模な反対運動で、住民側で地区計画の案を立てることで対抗することになった。ところが結局建築確認の方が早く降りたために、両者をめぐっていろいろすったもんだがあった。事は裁判にまで発展して、一昨年の時点ではマンションの建築計画が地区計画に違反するとして違反建築という判決が出され、去年の12月には東京都が違反建築物に対して是正命令を出さないのは違法だという判決も出た。ところが今年に入って逆に業者からの訴えにより、国立市長に損害賠償として4億円という判決が出る騒ぎとなり、現在控訴中である。ここ3年の間に実にめまぐるしい動きが起こった。そういった経緯もあって私自身(井上)こういった制度・問題についてあらためて考えさせられる事が多くなった。
 結局こういう動きもあったためにマンション紛争に関わった人を集めて「もめたね(もめごとの種はまちづくりの種)研究会」という会をつくった。毎月各地から関係者を講師として呼ぶなどして、各地の事例を学びながら、何が問題なのかといったことを議論してきた。

 そんな中で改めて建築基準法の改正を含めた今回の都市再生関連法の話に至ったわけだが、ここ10年来、全体的な流れとして容積率の緩和方向で話は進み、事業者が建物を建てやすいように都市計画が乱用されていく動きが顕著になってきた。さらにそういう流れに付随して最近事業者がいたく強気になってきており、逆に行政は無力化しているという事もいえる。こういう事態は今後に大きな危惧を残すといえる。
 それでもこれまでの容積率緩和の方向は、地下室分は容積率の計算外にする等、容積率の計算方法や、単体の建築物に対する規定の緩和ということが中心だった。ところが今回の改正案の方向は単体に限らず、制度そのものを変えていこうとする動きだと思う。様々な理由を付けて容積率を緩和して、色々な形態の建物を建てやすくするものだといえる。これは実に大きなポイントで、単体規定の緩和だけでも「なぜこんな所にこんな建築物が建つのだろう」と思うような建物が建つことになって、近隣住民との間でトラブルが起こるケースが多かったのだから、今後問題はさらに大きくなることが予想される。
 さらに、今回の改正のふたつめのポイントとして、法案の中にも「迅速な」「遅滞なく」といった言葉が頻繁に使われている事からも分る通り、手続きの簡略化を行おうとしていることにある。業者としては手続きに時間がかからないことは金利の問題等を含め都合のいい話ではあるが、最近まちづくりでは住民参加やパブリックコメントの使用等、色々話し合いの手法が提唱されはじめるという流れがあったにもかかわらず、住民の話し合い・合意形成といった時間を一切取らないで簡略化するという事はますます問題が大きくなる。
 次に土地所有者・まちづくり協議会・まちづくりNPO等に提案権を認めるようにしたという話がある。住民等がこれをうまく利用して地区計画等で対抗することができればこれは非常に良いことだと思うが、字面としては「土地所有者」となっている点に注意が必要である。土地所有者の2/3以上の合意で提案権が認められてしまうため、事業者自身が土地所有者であったり、土地所有者を巻き込んで事業を行おうとすれば、事業者と関係者だけで勝手に独自の都市計画を行うことができるという危険性もはらんでいる。都市計画の制度そのものを多角的に広げるという話になっていることも含めて、都市再生そのものが事業者が勝手に独自の事業を行うことが可能となる要素を含んでいる。
 今回の改正は、用途地域と容積率が必ずしも連動する必要はないといった考え方を導入する等、ひとつひとつの要素としてはなかなか合理的な考えを含んでいる。しかし、何を目指して緩和しているのかが分らず、原則的に全て緩和の方向で提案されるという「ビジョンなき緩和」となっていることが一番の問題である。どういうまちにしたいという目標を立てた上で、容積率を緩和したいという合意があるならば緩和することもかまわないが、住民の思いが反映されなかったり、これまで自治体が描いてきたこんな地域にしたいというビジョンを無視して容積率が一方的に緩和されるために、予想だにしなかった建物や納得できない建物が建つようになり、結果として周辺住民と色々なトラブルが起こる。
 総合設計制度を利用した建築物はこれまでは特例であった。ところがこれを申請・確認制にすれば、特例が特例でなくなり、一般解になってしまう。このことで地域にそぐわないような建物が大量に建つことになってしまうし、後々誰がどのように責任を取るつもりなのかということも大変気になることだといえる。
 さらに自治体も元気がないことも問題。これまで地方自治体が住民参加を取り入れて地域独自のまちづくりをやっていこうとしている動きもあったのに、民間に建築確認を認めるようになる等、自治体を無視して都市計画や建築が行われていこうとしている。4〜5年前には建築基準法の施行規則の改正があり、「建築確認の際自治体の条例や要綱を反映しなくて良い」と建設省から通達まで出ている。そのため建築確認も形式的になっていて、それが今回の総合設計にもつながっている。そうなると自治体職員にも自分たちが何をやっても無駄、一生懸命条例等を作っても反映されないのでは意味がない、といった無力感が広がる。今年度から3年程度かけての用途地域の見直しに入ろうとする自治体が多い。その過程で、今回の制度改正がプレッシャーになっていくことが予想される。

 このような問題が沢山ある法改正は本来認めたくはないが、現状として通ろうとしているし、このままの形で通ってしまう可能性が高い。では今度は通った後にどのように考え・対処したらよいのかについてコメントしたい。
 まず、提案制度を住民が有効に活用していく必要があるし、自治体もその受け皿を用意するべきだといえる。今回の改正案でも都市計画審議会が決めることも追加的に出て来ている。最近では都内を中心にして都市計画審議会の構成メンバーに公募市民が増えているのだから、このような動きを大事にして、自治体や都市計画審議会の機能をもっと強化していくことが大事。
 また、何か対抗力を持つことも大事である。そのための有効な手段としては地区計画しかないのではないか。ただ、地区計画は非常に時間がかかる。普通に手続を全てやろうとすると半年くらいはかかる。最短としては2ヶ月で地区計画を策定したという例もあるが、一般的にはこのような話は難しい。ところが、それに対して建築確認は2週間程度ですんでしまうほど非常に早い。そのため、建築計画が出来た後で地区計画を立てて対抗しようとしても、とっても持ちこたえられない。そうならないためには事前に考える姿勢が必要。さらに、総合設計制度を適用した建築物に関しては、地区計画の適用除外だ、といった動きもある。こうなってくるとせっかくの地区計画も意味がなくなってくる。その辺も押さえ込むような地区計画づくりが必要。

 総合設計に関しては加藤先生がおっしゃった通り。もともと個人的に総合設計とは非常に胡散臭い制度であると思っていた。さらに、公開空地を設ければ容積率にボーナスがつくということだが、良好な公開空地ができたためしがない。結局なんのためにそういうことをやっているかがちっとも分からない。これが建築確認だけですんでしまうようになってはさらに問題。最近は総合設計制度も色々な種類ができており、小さな敷地規模でも行うことができるようになったり、条件がどんどん緩和される方向にある。これにさらに確認申請だけですんでしまうようになることは非常に問題。
 また、建築紛争の9割方が高さ問題。容積率そのものは住民はあまり問題としない。容積率がアップし、結果として現れる建築物の高さが問題とされる。ところが概して住民の理解を得るような高さについての取り決めは策定されていない。地域的な合意を持った高さに関するルールづくりをしていくことも必要ではないか。一概に高層建築物を否定するわけではないが、結局地域にあった建物が建つことが大事だと思う。
 

《記録:東京ランポ事務局・深田 祐子》


 「建築基準法一部改正法案の修正を求める緊急アピール」への賛同署名を集めています!

 再生関連法案の論点と課題について―掲示板ができました!
 http://member.nifty.ne.jp/Teru2/w-machi/  3/13


都市計画分科会トップページへ  資料目録  3月13日集会  4月2日集会