建築基準法一部改正法案の問題点 2002.04.02

小泉 秀樹(東京大学助教授)


  建築基準法等改定案について、例えば都市計画法改正案で提案権を住民に認めるようにすることなど評価できる点がないでもないが、問題点が非常に沢山ある。提案権についてもベストとは言い切れないが、ないよりはまし。
  建物どうしの関係性・他の建物・周辺関係に関する規定を「集団規定」と呼ぶが、この集団規定の中のいくつかのメニューについて全般的に緩和の方向で修正を行おうとしているのが今回の建築基準法改正案の内容の主要部分。

建ぺい率
  建ぺい率とは、敷地に対して建物を上から見たときに覆っている面積の割合のことをいう。今まで住居系では60%までしか認められていなかったのが、今度は80%という値もメニューとして選択可能にする。この80%をどの程度のことをいうかイメージしてみると、例えば10m×10mという敷地があったとして、80%まで建築可能ということは大体9m×9mまで建てられるといえる。各辺に共通にスペースを空けたとして、壁から50cmずつしか隙間がないと言える。ほぼ敷地めいっぱいまで建てる事に等しい。60%でもまちとしてはかなりキツキツであるといえるのにこれでは困ることが想像できる。
  メニューが追加されるのであって、この法案が通ったからといってただちにこの値が適用されるわけではないが、都市計画決定する時にこのような値が適用されていないかどうか、住民がチェックして、適用されようとしているならば反対の声を上げてほしい。

容積率
  容積率についても似たような話ではあるが、今度は敷地面積に対して建物の床の全部の階の合計面積の割合をいう。住宅地だと100%程度、相当うまくいったアパート・マンションなどの集合住宅や、団地設計においても住宅地だと200%が限度といわれている。ちなみに良好な環境といわれている囲み型(8階建ての建物が中庭を囲む形)を使ったパリの例でも250%〜300%。これは1・2階部分に店舗が入っていることも影響している。純粋な住宅地ならやはり200%が限度。
  これに対して今回の改正案では住居系の用途地域に400%・500%といったメニューを加えようとしている。これは、普通の住宅に要求されるような日照・採光等の条件をやめましょうといっているのに近い。ひとつひとつの地域を見ていかないと何ともいえないが、やはり日照・採光といった条件も必要であろうと思う。
  これも設定できるメニューを増やすことであって必ずしもこの値が適用されるわけではないが、業者やディベロッパーの声が強いとこれらの値が適用される可能性が強い。自治体が都市計画決定しようとする時、住民が大きな声を出せばこのような値が適用されることはないと思うので、是非住民の人達も意識を持って声を上げてほしい。

斜線制限
  斜線制限については特定行政庁が都市計画審議会の議を経て定めることとなっているが、特定行政庁とはほぼ自治体のことを指していると思ってよい。斜線制限とは建物と建物の関係であったり、道路との関係から建物の立てられる型枠を決める制限のことであるが、今回の改正案で住居系の地域でも現在の商業系の地域と同じ勾配まで緩和することとしている。特定行政庁が指定しない限り適用されることはないが公聴会等を開催することはまずないと思った方がよいため、都市計画審議会の場が唯一住民に開かれた場であり、ここで反対を行い、緩和の指定をさせない必要がある。しかし、市民側がコントロールすることは難しい改正であるともいえる。

総合設計制度
  そして一番問題と思われるのが総合設計制度の問題である。
  総合設計制度とは容積率・斜線制限に加え高さ制限等を一定の公開空地を設ければ緩和するという制度のこと。改正案のポイントは許可制度から申請・確認制度へ移行すること。
  今までは特定行政庁による許可制度として扱われてきたが、それでも色々問題があった。建築行政には法令に違反していないかどうかをチェックするだけで、周辺の街並みとの整合性や関係性・デザイン性など建物としての評価・アーバンデザイン的評価をできる人が少ない。そのために実質的にはさまざまな技術基準を設けてそれをクリアすると許可を与えるようにしていたが、常に地域ごとにその地域に合った技術基準を作ることはほぼ不可能で、例えば東京都などでは、都全体の中から標準的な地域を抜き出してその値を取って全体の技術基準にしていた。そのために地域に合わない建物が突如としてできる事例が沢山起こり、反対運動等紛争が起こったりした。
  このような問題が起こる原因について、私自身(小泉助教授)などは、地域に適合した基準が設定されていないからであって、何でも全体の基準に適合していればよいとして地域性を無視してきたことであると考えているのに対し、業者などは本来建てる権利を与えられたのに、それに対して許可制度という制度を使っているから問題とされる、と捉えて許可制度そのものを撤廃してしまおうという流れで動いていた。最近では声を上げて反対する住民なども増えて来て、自治体としては許可することが難しくなったり、許可を取り消すような事例が増えてきた。これを解決するためにはやはり許可制度を止めるべきだ、という民間業者の動きが強くなり、今回の改正案に至っている。
  そこで、今回の改正案では具体的には他の建物と同じく建築確認だけで総合設計制度が運用できるようにした。
  建築確認とは法令に違反していないことを証明するために「こういう建物を建てます」といった建築計画を提出して、法令に違反していないかどうかをチェックして問題がなければ建ててよいことになる申請・認可制度であるといえる。今回は総合設計制度についても申請・認可制度にしようとする動きである。これは、適用区域を限定しない可能性が高いので、当該用途地域ならばどこでも空地さえ設ければニョキニョキとした建物が住宅地の中などに突如として現われる事を可能にする法律になってしまうということ。
  建ぺい率や容積率は都市計画決定手続きの中で行政や住民の動きによって歯止めがかかる可能性があるが、総合設計制度の建築確認は施行されたと同時にどこでも適用することが可能となってしまう。都市計画決定手続きの歯止めがかからない。一番問題がある制度だと言える。


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