はじめに
我が国は、戦後一貫して飛躍的な人口の増加と経済成長のなかで都市整備を進めてき
た。これは、急激な都市化及びモータリゼーションの進展にいかに適切に対応するかと
いった大きく困難な課題を解決する歴史であった。
現在、慢性的な交通混雑や危険市街地の存在といった課題が積み残しとなっており、
また、地方都市の中心市街地の衰退や交通負荷、環境負荷の大きい都市構造といった新
たな課題も生じている。
また、人口減少や少子高齢化の進行とそれに伴う投資余力の減少が予想されている。
こうした厳しい状況の中で、これらの課題解決を進め、人間回帰の都市の再生をめざし
た都市整備を着実に進める必要がある。
このような状況を踏まえ、将来の持続的発展を可能とする都市の将来像の実現に向け
て、都市交通・市街地整備に関する様々な施策のうち、緊急性・実現性の観点から紋り
込みを行った上で検討を行い、この結果を中間的にとりまとめたものである。
T 今後の都市交通・市街地整備を考える上での課題
1 拡散型都市構造の弊害
継続的な都市化の進展によって、我が国の都市は、効率的な土地利用がなされていな
い都心部が残ったまま、その周辺に住宅を中心とする低密度の市街地が郊外に薄く広が
る拡散型の都市構造となっている。この都市構造は、都心に向う長距離・長時間の通勤
を発生させ、生活時間を制約するものとなっている。また、自動車利用の拡大と相まっ
て、これまでの道路整備の努力にもかかわらず、慢性的な交通混雑や大気汚染などの環
境問題の大きな要因ともなっている。さらに、地方都市においては、居住者の減少、大
規模店舗の郊外立地などによって中心市街地の衰退を招いている。
このように拡散型市街地は、多様な都市機能が都心に集中し誰もが容易に都市的サー
ビスを享受できるといった、本来の都市のあるべき姿・魅力を阻害するものとなってい
る。また、今後の経済成長の牽引車の一つと考えられるソフト産業や高度なものづくり、
サービス産業などの都市型産業の育成の障害にもなると考えられる。さらに、行政運営
の観点からみると、行政コストの増加要因にもなっている。
2 環境負荷の軽減
二酸化炭素をはじめとした地球温暖化ガスの排出を抑制することは、全世界、特に先
進国の重要な政策課題である。しかしながら、拡散型市街地においては、各種活動に伴
って生じる移動に必要な距離が長くなるとともに、自動車の依存度が高いことと交通集
中による混雑に起因するエネルギー消費が大きいことから、環境に対する負荷の高い交
通体系になっている。今後、二酸化炭素の排出量を抑制しつつ、経済活動を維持してい
くためには、この拡散型都市構造の解消及び過度の自動車依存からの脱却が必要になる。
3 投資の重点化・効率化
これまで増え続けてきた人口は、出生率の大幅な低下によって、減少に転換すること
は確実であり、経済発展に寄与してきた人口増は見込めない上に、急激に高齢化が進み、
社会保障費や医療費などの財政支出の増が予想されている。これらの支出増をある程度
抑制できたとしても、かつてのような高い経済成長が見込めないことから、新たな社会
資本整備に充当できる投資額は、減少すると考えられる。よって、社会基本整備に係る
投資については、これまで以上の重点化・効率化が必要になる。
U 都市交通・市街地整備の方向
(1)市街地のコンパクト化
目指すべき都市像、市街地像は、本来都市毎にその都市の歴史や現状を踏まえ、行政
と市民の間で合意され共有されるべきものであることは言うまでもない。しかし、現在
の拡散型の都市構造をコンパクトで多様な機能を有する市街地に改編していくことは、
大都市・地方都市を問わず我が国の今後の都市整備・市街地整備の基本的な方向である
と考えられる。このため、例えば中心市街地等において土地利用や人口或いは都市活動
の密度を上げていくことを前提に、都市交通・市街地整備施策の重点を新市街地から既
成市街地に移す必要がある。
ここでは、コンパクトな市街地を目指すという基本的方向のもとに、今後の都市交通
・市街地整備のあり方等を提案するものである。
(2)コンパクトな市街地の概念
基本的方向として想定したコンパクトな市街地の概念は、次のとおりである。
@土地利用密度を高めること
中心市街地や鉄道駅周辺等の各種都市機能が既に集積している地区を中心として、
土地利用密度を高める。この結果、市街地の広がりが縮小し、市街地周辺部での自然
の回復も可能になる。
A複合的な土地利用
居住機能・就業機能をはじめ、商業、行政、医療、福祉、教育、娯楽等の多様な都
市機能が集積した複合的な土地利用を実現し、日常の生活活動が比較的狭いより身近
なところで可能となる市街地を形成する。
Bオープンスペースの確保
土地利用密度を高める市街地においては、これに併せ、街路や公園・緑地などの公
共空間だけでなく、民有地内のものも含め、オープンスペースを拡大し、緑や自然的
環境の積極的な導入を図る。
C細分化された敷地・街区の統合
既成市街地においてオープンスペースを確保しつつ、複合的な土地利用を実現し、
土地利用密度を高めるために、細分化された敷地や街区の統合或いは共同化を進め、
十分な敷地規模を確保する。
D連たんした市街地の分節化
大都市圏のように、複数の都市圏の市街地が重なり合いながら連たんしている場合、
既存の拠点地区等を中心に市街地密度を高めるとともに、河川や緑地などを活用して、
市街地を分節化を図る。
(3)今後の検討課題
このような市街地のコンパクト化によって、郊外の低密度市街地の広がりが縮小して
いくことが予想される。都市人口の減少と同時に進んだ場合、この縮小の速度は、予想
外に速いことも考えられる。一方で、これまでの市街地の拡大に対応した都市整備の施
策や考え方を見直す必要があり、このような縮退する市街地については、総合的な都市
政策の観点も含め、今後その対応方策を検討する必要がある。
V 都市交通のあり方とその推進方策
1 都市内道路の機能分化
市街地のコンパクト化によって再生された市街地においては、居住機能も含めた様々
な都市機能が集中し、都市活動が活発に行われ、多様な魅力と活気ある都市生活が実現
できると考えられる。これを一層確実なものとするためには、人と物の円滑・安全な移
動が確保されることとあわせ、快適でにぎわいのある都市空間が形成されることが必要
である。このようなコンパクトな市街地を目指す上で、都市内道路においては、交通を
処理する機能とともに、都市空間の骨格となる空間機能が適切に確保することがこれま
で以上に重要な課題となる。しかしながら、現在の都市内道路は、慢性的な交通渋滞や
環境問題、地先道路への通過交通の流入とこれに伴う交通事故の危険性増大など、良好
な市街地形成の阻害要因となっている。
これまで、都市内道路の計画・整備にあたっては、道路の性格によって多少の差異は
あるものの、基本的には道路が有する交通機能、空間機能、土地利用誘導機能等多様な
機能全てが確保されることを原則としてきた。しかし、こうした多様な機能が十分に発
揮されるためには当然のことながら広い幅員が必要となる。実際には市街地内の空間制
約からこのような形での整備は、ほとんど不可能であり、各機能がいわば中途半端なも
のになって本来期待される機能が確保されていない。この結果、自動車交通に関する交
通機能に関しては、自動車の通路としての機能(トラフィック機能)と沿道の建物等へ
の出入りや荷物の積み卸しの空間としての機能(アクセス機能)が相互に阻害し合って、
整備効果が十分に発揮されない場合が多く見られる。
このため、一本の都市内道路にトラフィック機能とアクセス機能の両方をすべて受け
持たせるのではなく、道路網を構成するそれぞれの道路が両方の機能のうちどちらをよ
り重視するかということを明確にした上で、それにふさわしい構造等で計画・整備する
こととし、道路網の中で適切な役割分担がなされるようにすべきである。特に、今後の
時間と投資の制約のもとで快適でにぎわいのある都市空間を効果的、効率的に形成して
いくためには、この空間から不必要な通過交通を排除できるよう、自動車交通を円滑に
流すための道路(トラフィック機能重視道路)と沿道の建物への出入り等の機能を重視
する道路(アクセス機能重視道路)を土地利用や道路交通の状況に応じてバランスよく
整備する必要がある。
トラフィック機能重視道路の整備を進めるにあたっては、そこから排除したアクセス
機能について、関連するアクセス機能重視道路の整備のほか、周辺市街地の駐車場や荷
捌き施設整備や他の公共施設等とも連携してその一部を担うなど、沿道地区全体でアク
セス機能が確保されるようにすべきである。
また、荷捌きも含めた駐停車対策については、地区全体でアクセス機能を適切に確保
するという観点から、都市内道路の機能分化とあわせ都市交通政策として充実を図り、
総合的な施策展開を進める必要がある。
なお、徒歩、自転車のための空間のあり方は、自動車交通に関する交通機能の分化と
は別に、円滑で快適な移動ができるように或いは楽しくにぎやかな空間が連続的、一体
的に形成されるように、計画・整備する必要がある。
このような都市内道路の機能分化及び駐車場施策の充実は、自動車交通の円滑化、効
率化とともに市街地環境を改善し、地球温暖化対策にも寄与することから、積極的に推
進する必要がある。今後、それぞれの都市や市街地の特性に応じて様々な実例を全国各
地で積み重ねながら、より効果的な施策展開や具体的な適用方針について検討する必要
がある。
(1)トラフィック機能重視道路
トラフィック機能重視道路では、交差点や路上の駐停車、沿道建物の出入り交通など
によって自動車交通の流れが妨げられないようにする必要がある。このため、様々な工
夫によって交差点の容量を拡大するとともに、意図的に駐停車を排除する構造にしたり、
沿道建物の出入り交通を制限するなど、トラフィック機能を阻害するアクセス機能をで
きるかぎり制限する必要がある。
この場合、沿道市街地へのアクセス需要そのものがなくなるわけではないので、これ
を処理するため、アクセス機能を担うための道路や駐車場、荷捌き施設等を別途確保す
ることが必要となる。このためトラフィック機能重視道路の整備とあわせ、そこで制限
されるアクセス機能を担う道路を含めた沿道市街地の整備を一体的、面的に実施するこ
とが望ましく、必要となる区画道路や駐車場等の整備をトラフィック機能重視道路整備
の一環として実施することが考えられる。
具体のトラフィック機能重視道路の計画、整備、管理については、それぞれの都市毎
に都市構造や道路網の状況等を踏まえ、地方公共団体が主体となって総合的に取り組む
必要がある。その際次のようなことに留意すべきである。
@交差点の処理
区画道路との交差点については、自動車の流れを阻害しないように設けるとともに、
幹線道路との交差点については、これまで一般的に実施されてきた立体交差化に限ら
ず、例えば乗用車専用の立体交差化、右折のみの立体交差、右左折レーン設置、信号
処理の工夫など多様な方策について、費用対効果を勘案しつつ柔軟に対応することが
望ましい。またこれまでの立体交差化は、追加の用地買収が生じたり、標準的な工法
では工事中の交通阻害が大きく、工事の完了までに長期間を要する場合が少なくなか
った。事業期間の短期化は、供用中の都市内道路の交差点立体化を推進する上で効果
が大きいので、設計や工法の工夫によって用地買収を避けたり、工事期間を短縮する
ことを適切に評価し、単に費用の面だけで立体交差化の方法を選択することのないよ
うにすべきである。
A停車帯の扱い
路上での駐停車を円滑に処理するため、都市内道路においては停車帯を設けること
が標準とされてきた。しかしながら、停車帯の存在はトラフィック機能重視道路にア
クセス目的の交通を呼び込んでしまうことから、原則として停車帯を設置しないこと
とし、また、車道と歩道の間に植樹帯などの障害物を設置して路上の駐停車がなされ
ないようにすべきである。
やむを得ず停車帯を設置する場合には、停車車両が走行車線にはみ出さないよう十
分な停車帯幅員を確保するとともに、交差点近傍においては植樹帯の設置などによっ
て物理的に停車させないようにするなど、停車可能範囲を明確にする工夫が必要であ
る。
あわせて、交通管理者等と連携して、駐停車規制の実施とその実効性向上を図る必
要がある。
B計画・整備
このトラフィック機能重視道路の計画は、「都市計画区域の整備、開発及び保全の
方針」などの都市計画のマスタープランにおいて網計画を予め明示しておき、これに
基づき、行政がルートや車線数を決定し、所定の手続きを経て、都市計画決定すべき
である。
また、沿道市街地の面的な整備をあわせて行うことが望ましいことから、民間都市
開発や木造密集市街地の解消等と積極的に連携して、整備を進める必要がある。この
場合、単に関係地権者を面的整備に取り込むのではなく、円滑な事業実施のため、域
内残留や敷地の共同化、域外移転等の地権者の意向をできる限り尊重する必要がある。
このため、例えば、計画の早期の段階から住民の意見集約を進め、合意形成を促進す
るとともに、用地買収と土地の権利変換等を柔軟に組み合わせることを可能とするな
ど、事業制度を充実させる必要がある。
C公共交通の導入
自動車交通からの利用転換を図ることにより道路交通の円滑な流れが確保される場
合には、基幹的な路面公共交通機関を導入することも考えられる。この場合、駐停車
排除との相乗効果も期待できることから、路面電車にあっては路側走行、路線バスに
あってはバス専用レーンの設置を積極的に推進すべきである。このようにトラフィッ
ク機能重視道路に基幹的な公共交通機関を導入した場合、当該道路が都市構造の主要
な骨格軸となることに留意する必要がある。
D歩道
トラフィック機能重視道路の歩道については、沿道市街地に出入りする自動車交通
がないことから、快適な歩行・自転車通行の空間となる可能性がある一方で、植樹帯
などで遮断されており、反対側の歩道や沿道市街地との一体感が希薄となることに留
意する必要がある。
(2)アクセス機能重視道路
アクセス機能重視道路は、近傍のトラフィック機能重視道路と役割分担して停車や荷
捌きなどの機能を担うことから、十分な幅員の停車帯や路上荷捌き場を設置することが
必要である。また、沿道建築物の駐車場等への出入り口を許容することから、沿道建物
や市街地と道路空間の連携、一体化を図ることによって、アクセス機能を効果的に発揮
させることが望ましい。
さらに、沿道の土地利用や交通の状況に応じて、一部停車帯を縮小して歩道を広げた
り、植樹の形状を変えるなど、画一的な標準設計にこだわることなく、地域の住民と連
携して柔軟な計画、設計を行い、個性的で魅力あふれる都市空間が形成されるよう配慮
すべきである。
具体のアクセス機能重視道路の計画、整備、管理に当たっては、次のような事項に留
意する必要がある。
@計画・整備
都心の商業業務地区等においては、都心機能を支える重要な道路となることから、
地域の住民(含む企業等)の参加を得つつ、都市全体の観点からそのあり方を考える
必要がある。一方、住宅系市街地においては、利用者や受益者が一定の広がりに限定
される場合が多いことや地域の生活環境の改善に寄与することが期待されることか
ら、沿道市街地との連携や一体化のあり方も含めて、地域の住民(含む企業等)が主
体的に計画することが基本である。また、二重駐車の横行など道路の整備後の使い方
の混乱を避けるため、このような過程を通じて、道路の使い方のルールを確立すると
ともに、その遵守が徹底される必要がある。
また、当該道路の整備は、沿道地域の協力を待つつ、また民間都市開発と連携して、
地方公共団体が整備を進めることとなる。このうち、優良な都市開発の誘発や木造密
集市街地の環境改善など都市再生に資するものについては、特に重点的に整備する必
要がある。
A公共交通の導入
路面公共交通機関を導入する場合、路上駐停車や沿道への出入り交通が多く、自動
車の走行速度が遅くなるなどのアクセス機能重視道路の特性との整合に配慮する必要
がある。具体的には、路線バスの場合、身近な交通機関としての機能に配慮して導入
すべきであるし、路面電車の場合は、停車車両と両立できる走行位置を選択せざるを
得ない。さらに、平面交差が多いことから、定時性を可能な限り確保できるように、
公共交通機関に対する優先信号の設置などを行うことが望ましい。
Bにぎわいの演出
このような特性を踏まえ、地方都市の商店街などについては、公共交通を積極的に
導入するとともに、アクセス機能重視道路の空間と歩行者や自転車の空間を融合させ、
にぎわいを演出することが望ましい。
(3)駐車場施策
都市内道路の機能分化を進めることによって、トラフィック機能重視道路から排除さ
れた荷捌きを含む停車需要は、基本的にはアクセス機能重視道路において円滑に路上処
理されることが望ましい。しかし、現実にはアクセス機能重視道路だけで全ての停車需
要を処理することは困難であり、停車需要を積極的に路外駐車場に誘導することも必要
となる。
一般に路外駐車場は民営、公営を問わず有料であり、停車のための路外駐車場利用に
は抵抗があると考えられることから、停車需要を駐車場で受け入れるためには、短時間
の駐車(駐車場の出入及び目的までの移動に要する時間を勘案して、概ね30分程度)
を無料とする方策が有効と考えられる。また、このような誘導の対象となる路外駐車場
は、停車を排除するトラフィック機能重視道路にできる限り近いことが必要であり、新
たに整備するものや公営のものだけでなく、既設の民営駐車場なども活用することが望
ましい。
短時間駐車の無料化に要する費用については、自動車交通の円滑化による便益或いは
停車帯設置費の相当分に対して、道路整備の一環として負担することは妥当と考えられ
る。このため、停車需要受け入れのための短時間駐車車両の費用負担について、民営駐
車場への直接補助も含め、今後具体化に向けた検討を進めるべきである。
また、これまで駐車場政策は、道路交通が輯摸する地区を中心に、主として民間によ
る駐車場の供給「量」の確保を目指すことを基本としてきた。このため、整備すべき駐
車場の形態、位置、使われ方等について行政が関与する仕組みにはなっていないため、
駐車場出入り口をトラフィック機能重視道路に設置しないように規制することや、アク
セス機能重視道路への設置を誘導することは困難である。このため、駐車場法及び都市
計画法に基づく駐車場整備地区や地区計画等を活用して、駐車場の配置や出入り口の位
置等を規制・誘導すべきである。また、付置義務駐車場を建物から離れたところ(隔地)
に例外的に設ける制度(隔地駐車場)、付置義務駐車場設置の代替として賦課金を徴収
する制度及びこうした制度を活用した街並みの保全や地区全体の駐車場管理、交通環境
の改善方策などについて検討を進める必要がある。
2 道路交通対策の施策領域の拡大
コンパクトな市街地においても、徒歩と自転車だけですべての移動を完結させること
は困難と考えられる。この場合、都市のにぎわいや高齢者の移動手段の確保などの観点
から自動車のみに依存せずに円滑、快適なモビリティを担保するためには、それぞれの
都市の特性に応じた公共交通が必要となると考えられる。
また、主要な鉄道駅などの公共交通機関の結節点は、多くの人が集まる空間であり、
それを核として賑わいと魅力にあふれた都市空間の創出を図ることは、コンパクトな市
街地形成を促進する上で重要である。
(1)公共交通の空間整備
バスや路面電車などの道路を走行する公共交通機関については、その走行空間が一般
の自動車と分離されていない場合、円滑な運行が確保できず、ドアー・ツー・ドアーの
利便性に勝る自動車との競争は極めて厳しい。このため、大都市の交通需要の大きい区
間では地下鉄が整備され、そこまで大きな需要のない区間では、道路空間を立体的に利
用する形で都市モノレール等の導入が進められてきた。しかしながら、地方都市での導
入に際しては、現在のシステムでは過大投資となる場合が多く、今後広く普及が見込ま
れる状況ではない。また、路線バスに関しては、専用レーンや優先レーンの導入を進め
てきたにもかかわらず、利用者は減少しており、更に今後はバス事業に係る規制緩和に
よって路線の廃止がさらに進む可能性もある。
このような状況を踏まえ、コンパクトな市街地において公共交通を充実させるために
は、公共交通機関の専用の導入空間を市街地や道路の状況に応じて柔軟にかつ低コスト
で確保できるようにする必要がある。このため、路面電車については路側走行や歩行者
専用道路内の走行(トランジットモール)など走行空間の多様化、バスについては路側
の専用レーンの設置などに努めるとともに、優先信号などの交通管理施策との連携を進
める必要がある。都市モノレール等については、歩道上での専用空間確保や建築物の立
体的利用などの様々な形で導入空間を柔軟かつ効率的に確保することを可能にする必要
がある。
なお、公共交通機関は、施設整備の一部及び運営に係る経費を料金収入で賄ってきて
おり、このシステムは基本的に維持すべきものである。しかしながら、公共交通機関整
備の便益を受けるのは、料金を支払う利用者に限らず、広く都市内に及んでいることか
ら、公共交通に対して公的な支援を行うことも合理的であると考えられる。
(2)交通結節点における歩行者ネットワーク
駅前広場など交通結節点の整備については、これまでも鉄道同士や鉄道とバス、タク
シー等との乗り換え利便性を向上させる施策を充実してきており、交通結節機能の強化
に関しては様々な整備が可能となってきている。今後コンパクトな市街地形成を進める
上で、交通結節点は交通利便性とともに都市開発の潜在能力が高いことから、これらを
活かして核となるよう、周辺に多様な都市機能や行政機能の集中を進め、土地の高度・
有効利用を進めることが望ましい。このため、駅及び駅周辺地区への道路交通の円滑な
アクセスを確保するとともに、安全で快適な歩行者空間を確保するなど、道路、歩行者
ネットワーク、駐車場等の交通基盤施設の充実が必要である。
特に、大都市の複数の鉄道が集まる主要な鉄道駅周辺では、自動車交通と歩行者交通
が輻輳し、円滑、快適な交通環境が確保されていないことが多い。このような場合、歩
行者ネットワークは、駅等の位置に対応して地下、地平、上空といった重層的に、また、
道路、自由通路、建築物の通路など複数の施設を連続させることによって形成されるこ
とが望ましい。このため、効果的な網構成を実現するための全体計画を関係者が合意の
上、定めるとともに、この計画に基づいて、連携して整備を進める必要がある。この整
備を円滑に進めるために、公的助成も充実させる必要がある。
3 事業の進め方の改編
(1)都市計画道路の見直し
都市内道路の計画は、都市及び都市交通の将来像等を踏まえ、都市全体のネットワー
クの将来の姿として定めているものであり、都市によっては戦前に遡ることができるよ
うな当初決定以後も、戦災復興やその後の経済成長期等、その時々の社会のニーズに応
じ都市ごとに見直しが行われながら、実現に向けて整備が続けられてきた。
多くの都市における現在の都市計画計画網は、これまでの人口の都市への集中とそれ
に対応する都市の拡大等を前提とした計画となっており、今後都市においても人口が減
少しコンパクトな市街地形成が求められる等の社会経済の情勢の変化を踏まえ、将来の
都市像とそれに至る都市整備の道筋を大きく見直すなかで、早期に道路網の見直しの検
討を行うことが必要であり、この結果に応じて速やかに都市計画道路の追加、廃止、変
更等を実施すべきである。
(2)整備プログラムの策定と事業の短期化
市街地の拡大に伴い、都市計画道路整備の必要事業量が急激に膨張したのに対して、
それに対応する事業費を十分に確保できなかったことから、その整備は圧倒的に遅れ、
全体の5割弱の路線が未整備となっている。今後の投資余力の減少に鑑みると、一層の
効果的、効率的整備が求められる。このためには、都市内道路の機能分化を進め、トラ
フィック機能重視道路とアクセス機能重視道路が適切に役割分担して、道路網全体とし
て整備効果が最も大きく発揮されるように、バランス良く両者の整備を進めていくこと
が重要である。具体的には、合理的な道路網構成や交通処理上のボトルネックの解消、
都市開発の状況等を考慮し、また資金計画や用地確保の見込みなどを踏まえつつ、実効
性ある整備プログラムを策定し、それに基づいて重点的な都市計画道路の整備を推進す
る必要がある。また、都市計画法に基づく建築制限が優良な民間都市開発の障害になっ
ている場合などにおいては、用地の先行取得を行うことなどの対応が必要である。
さらに、特に緊急を要する事業については、事業期間を明示した詳細な事業計画を策
定し、公表した上で事業を実施することなどによって、事業の短期化に努めるべきであ
る。
W 市街地整備のあり方とその推進方策
1 従来の既成市街地の整備手法の課題
コンパクトな市街地の形成を図るためには、土地利用密度を高めることや細分化され
た敷地・街区を統合することが必要であり、既成市街地において、中心市街地や木造密
集市街地など広大な地区の市街地整備が必要となる。一方、従来の既成市街地の整備は、
限定された地区の改善に留まっており、今後、広範な事業展開を可能とする新たな市街
地整備手法を検討していくことが必要である。
(1)行政施行の課題
都道府県や市町村などの行政が主体的役割を果たして施行する事業(以下、「行政施
行」という。形式的に組合施行の形を取っている事業であっても、行政が主体的な役割
を果たしている事業はこの範疇に入る。)は、行政が持つ政策目的を実現するために、
行政の発意で事業を実施することが多い。このため、地権者は事業に対して受け身の姿
勢となりがちであり、施行者と地権者が対立的関係になることも多く、地権者との移転
交渉などに長期間を要することになる。さらに、建替え予定のある地権者にも移転補償
費を支払う場合が生じるなど事業費が拡大しがちであり、事業に対する公的な負担が増
大することになる。結果として、行政施行による事業の実施は、駅前広場、幹線道路等
の整備や中心市街地の活性化を目的とした公共性が極めて高いものに限定されてきた。
(2)民間施行の課題
個人、組合、民間ディベロッパーなど民間の発意、主導による事業(以下、「民間施
行」という。)は、民間が自らの土地の利活用を行うことを目的に事業を実施するもの
である。このため、民間施行は、行政施行に比べて、事業採算性に重点が置かれ、施行
区域の設定や土地活用等について創意工夫を行うことにより、事業費の縮減や合意形成
の期間短縮などが図られている。しかしながら、駅前広場や幹線道路の整備を伴うなど
行政が持つ政策目的に合致する民間施行の事業に対しても、行政自らが施行する場合と
比べ、必ずしも十分な支援を行っておらず、これが民間施行をより広い地域で活用する
上での隘路のひとつとなっている。この結果、民間施行が成立するのは、開発潜在能力
が極めて高い地区に限定されてきた。
2 今後の既成市街地の整備方針
今後、既成市街地において広範な事業展開を図るため、駅前広場や幹線道路の整備を
伴うなど特に公共性が高い事業を除いて、行政は自らが施行するのではなく、民間施行
に対する支援を提示することによって、民間による自主的な事業の立ち上げを促進し、
条件が合えばそれを支援するという形態にその役割を転換していくことを基本方針とす
る。これにより、民間が施行可能な事業領域を拡大し、民間の有するノウハウ、資金力、
機動性を最大限活用し、限られた財源で、既成市街地における広範な事業展開を目指す
ものとする。
(1)民間施行支援の考え方
行政は、民間施行による事業を促すため、事業の有する公共性に応じて、それが高い
ほど手厚く支援することとし、支援の内容は、開発潜在能力の高い地域(大都市の都心
部等)では規制緩和を中心とし、開発潜在能力の低い地域(地方都市の中心市街地、大
都市の木造密集市街地等)では財政支援を中心とする。その際、支援の対象とする地域
と支援内容は、地域の事業立ち上げ意欲や行政の負担額に影響する重要な要素であり、
各地方公共団体における都市整備や民間活動の状況等を踏まえ、地方公共団体が独自に
定める必要がある。例えば、既成市街地における都市整備上の課題は、土地の有効高度
利用、密集市街地の解消、中心市街地の活性化、駅前広場や幹線道路等都市交通施設の
整備など多様であり、個々の地方公共団体にとって優先度の高い課題に対応する事業が
公共性の高いものとして支援の対象となる。
また、支援の対象となる事業を民間が立ち上げた場合、行政は確実にその支援を実施
することが極めて重要である。
(2)事業展開の考え方
事業の立ち上げは、行政ではなく民間の発意で行うことから、支援対象とした地域の
中で、どのような区域で、どのような事業を立ち上げるかについては、行政が決めるの
ではなく、地域が選択することとなる。また、支援対象とした地域において、行政から
地域の現状や支援制度について情報提供等を行うものの、民間の自主的な発意がなけれ
ば、市街地環境の改善は進まない。
また、駅前広場や幹線道路の整備を伴うなど公共性の高いものは、行政施行を基本と
するが、地区の開発潜在能力が高く、民間による発意のあるものについては、民間施行
により整備を行う。
(3)民間施行支援による効果
行政がこのような民間施行の支援を制度化すれば、民間は、明確な事業実施条件の下
で、事業地区の区域の設定や事業内容の調整を行い、事業採算性等のフィージビリティ
の検討のもと事業化を企画することができる。結果として、行政は、十分に調整された
プロジェクトに対してのみ支援を行うことになり、事業期間の短縮や公的支出の縮減が
期待できる。
3 既成市街地整備の推進万策
(1)行政による総合的な民間施行支援の実施
既成市街地における民間施行の市街地整備事業を推進するため、行政は、事業が有す
る公共性に応じて、資金助成と規制緩和を総合的に行うこととし、これに必要な制度の
整備を図る必要がある。
@事業の初動期に対する支援
事業の初動期において、施行予定区域内の多数の地権者は、未だ組織化されておら
ず、市街地整備のノウハウや資金も有していない。このため、事業企画や調整業務な
ど、事業化に向けた初動期の検討に対する助成制度やまちづくり専門家などのコーデ
ィネーターを斡旋・紹介するなどの支援制度を拡充していく必要がある。
A地方公共団体による総合的な民間施行支援制度
地方公共団体においては、地域特性に応じて、資金助成と規制緩和を総合的に行う
民間施行支援制度を、地域の独自の制度として創設することを検討すべきである。
制度においては、対象とする地域、対象とする事業及び行政による支援の内容を予
め分かり易く明示し、支援すると認めた事業については、行政の財政的理由などから、
事業途中で支援を縮減したり変更することにより民間事業者の事業推進への影響を及
ぼさないようにすることが重要である。
このような民間施行支援の枠組みを地方公共団体が円滑に整備できるよう、国が民
間施行支援のガイドラインを作成することも考えられる。
B地方公共団体の財源確保
民間施行による事業は、経済情勢や地元の調整状況などに応じて、機動的な事業進
捗が図られるため、行政施行と比較して年度毎に実施される事業量が激しく変動する
ことになる。この結果、実施される事業量が急激に増える場合がある。また、事業に
よって整備される土地や建物の使用者の求める完成時期に合わせて事業を進捗させる
ことが必要であり、事業の遅延は許されない。しかしながら、地方公共団体において
は、変動する民間事業量に応じた的確な財源確保がなされない恐れがある。
このため、地方公共団体の公的負担を開発に伴う将来の固定資産税収入などを見込
んで手当てする制度(TIF:Tax Increment Financing)や、民間事業者の資金を活用
し事業を立替えて実施し、後年度に補助金を分割して充当する立替施行制度など、地
方公共団体の財源確保にかかる制度の検討を行うことが考えられる。
C民間事業者に対する事業資金調達の支援
民間事業者にとっては、低廉な事業資金を長期に確保することが、安定的な事業実
施に際し重要である。このため、無利子貸付制度の拡充、金融市場からの事業資金調
達を容易にする債務保証制度の確立などについて検討を行う必要がある。
(2)地区の開発潜在能力に応じた市街地整備手法
地区の開発潜在能力に応じて、有効な市街地整備手法は異なる。
ここでは、既存の整備手法に加え、都心地区や拠点駅周辺など開発潜在能力の高い地
区においては、民間ディベロッパーの投資能力や調整能力を活かした大規模な民間都市
開発を推進する新たな手法、木造密集市街地など開発潜在能力が相対的に低い地区にお
いては、地権者の自主更新能力を活用した共同建替えを推進する新たな手法を提案する。
@連鎖的事業展開による大規模民間都市開発の推進手法
開発潜在能力の高い地域において、民間による都市開発を単発で終わらせることな
く、周辺へも連鎖・拡大していくことが、広範に市街地整備を展開する上で有効と考
えられる。具体的には、学校跡地などの空閑地に先行的に建物を建設し、周辺地区か
ら地権者を受け入れ、その移転後の跡地を次期建物の建設地とし、これを繰り返すと
いう方法で、民間開発の連鎖・拡大を実現していくという手法である。
民間事業者の経済合理性に基づく自由な交渉力を活かすこと、予め優良な住宅を建
設し、移転後の生活像を目に見える形で提供することなどにより、地権者の協力が得
られやすくなり、機動的な事業展開が期待できる。また、開発潜在能力の高い地域に
おいては、高い容積率を実現する建物の建設が可能であり、当初の空閑地を上回る面
積の次期建設地を捻出することができる。
今後は、隣接していない敷地間の権利変換にかかる税制措置、弾力的な規制緩和等
の支援措置について検討する必要がある。
A共同建替えの推進による木造密集市街地の整備手法
木造密集市街地の整備方策として、公共投資の対象を都市計画道路に重点化させる
とともに、その整備に伴い開発潜在能力が高くなるその沿道市街地について、不燃化
された高密度市街地の形成を行う「防災環境軸」の整備が、先の都市計画分科会中間
とりまとめにおいて提案されている。
防災環境軸の整備を促進するために、沿道市街地において実施される地権者の自主
更新能力を活用した共同建替えに、敷地が隣接していない防災環境軸に囲まれた内部
市街地の地権者を参画させることが考えられる。隣接していない複数の敷地を一つの
事業区域として考え、離れた敷地間で任意の権利変換を行うことにより、共同建替え
のパートナー探しが容易となる。また、内部市街地の地権者移転後の跡地が地域の広
場や緑地用地として確保されれば、地域環境の改善や内部市街地の防災性の向上にも
寄与するとともに、内部市街地の再整備の可能性も高まる。
今後は、隣接していない敷地間の権利変換にかかる税制措置、弾力的な規制緩和、
建物をセットバックして生み出した都市計画道路用地の公的買い上げ等の支援措置に
ついて検討が必要である。
中間とりまとめ(案)に対する東京ランポの意見
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