衆議院国土交通委員会 参考人意見 



都市再生特別措置法案及び関連法案について

                            2002.3.19林 泰 義(千葉大学工学部客員教授)

1.目指すべき都市再生のあり方

1)状況認識について:コミュニティの持続的発展を制度の目標とすべき時代の到来

 現状の日本の諸都市は、1970年代、英国病と言われ衰退した英国諸都市、同時代に都市荒廃・経済不況、そして犯罪多発に苦しんだ米国諸都市と類似した状況にある。英米両国においては、政府による都市開発の失敗、民間企業による大規模都市開発の挫折を経験している。ここから彼らが学んだことは、地域コミュニティ自身による地区再生のみが、都市荒廃と都市経済不況からの脱出の基礎となると言うことである。
 米国の非営利まちづくり法人(Community Development Corporations:略称CDCs、1960年代後半に登場)は、このコミュニティ自身による取り組みを支える社会システムの最前線で活動し、米国の都市再生に劇的成果をあげた。こうした成果は、欧米各国において、コミュニティの持続的発展を法制度の目的にし、市民セクターを主体として支援した結果である。日本においても学ぶべき点である。
 日本のコミュニティは、急速に荒廃し始めている。犯罪の急速な増加がこれを証明する指標である。しかし、この実態が都市荒廃、都市経済不況と深く結びついていることへの認識は、日本にはゼロである。都市再生本部の組織構成と、これが打ち出している方針がこのことを物語っている。
再生の主役は、ハードな都市開発ではない。ソフトな社会システムの構築こそが主役である。


2)都市経済の再生:都市内空洞化から脱出する都市活動回復へ

 都市経済の面から考えるならば、都市内の空洞化の広がり、衰退・荒廃地域の拡大は、その地域が経済市場から脱落したことを意味する。都市経済の収縮である。地域社会の活動の回復、身近なヒューマンスケールの物的社会的環境の再生は、コミュニティ経済の再生、地域の市場への復帰、都市再成長の始まりを意味している。この観点から、大規模開発だけではない中小規模の開発・修復そして保全の意義を十分認識すべきである。


3)市民セクターの発意と活動の育成に重点をおくべき

 レーガン、サッチャーに代表される市場主義・小さな政府政策は、英国病からの脱出、米国の活力回復をもたらしたが、同時に社会的分裂、国民の所得格差の拡大をもたらした。
 これを補ったのがNPO等の市民セクターである。政府、市場、そして市民セクターの三者によるガバナンスが、レーガン、サッチャー政策後の第3の道として求められることとなるのである。
 日本においては、都市計画関連分野における開発企業に対する各種優遇措置は、1980年代以降の市場主義の台頭に伴い急速に充実してきた。しかし、多様な社会的発意を保障するために必要なNPOなど市民セクターの形成・育成については、他の先進諸国に比しても取り組みが大きく遅れている。都市再生が真の意味で公共性を獲得するためには、とりわけ市民の発意と自律的活動の育成に重点を置く必要がある。


4)都市における主体・活動の多様性を尊重すべき
 
 日本の大都市は、世界の都市に比しても多様な市街地形態や居住形式を包含している。また、社会的にも多様な階層の混住を許容し、また多様な形態の生産・サービス活動を地域において展開することを可能としてきた。日本の都市が有する「多様性」は都市社会の活力の源泉であり、また大きな社会的な軋轢・対立及び犯罪の発生を抑制してきた。これらの点は、日本の都市が有する「競争力」の源泉であった。
 昨今確 かに日本の大都市における活力は低下している。しかし、その発生の由来は1980年代 から90年代にかけて生じたバブル経済による多様性の喪失であったことを忘れてはならない。
都市再生 は、かつての都市形成における市場重視政策の失敗を繰り返すことなく行われる必要 がある。また、多様な主体・階層の発意と活動を許容する日本の都市の優位性を尊重 しつつ行われる必要がある。


5)超高層+オープンスペース型都市像に偏らない多様な都市像と都市活動像の探求を支援すべき

 日本の大都市都心周辺は確かに生活環境上多くの課題を抱えている。しかし、生活環境を改善するにあたり、スレンダーな超高層・高層建築物とオープンスペースの建設のみに偏って行うことには、都市で活動する主体の多様性を確保する観点からは問題がある。むしろ、多様な市街地形態の特質を個別地域ごとに認識し、一方で現存する地域の「資 源」を最大限活用するような、きめ細かく柔軟な方法が求められている。超高層+オープンスペース型 都市像は多様な選択肢の一つにすぎないことを明確に理解したうえで、都市再生政策 を組み立てる必要がある。



2.都市再生関連法案が開くものと改善を要する問題

1)コミュニティ主体の取り組みを支える仕組み:「まちづくりに関する都市計画提案制度の創設」

 今回の都市再生関連法において評価すべきは、(本日の二法案ではないが)「建築基準法等の一部を改正する法律」によって、土地所有者、まちづくり協議会、まちづくりNPO等による都市計画の提案が出来る制度の創設である(都市計画法第21条の2〜5関係)。
 この提案制度は、都市再生特別措置法とは別に定められ、より広い範囲に適用しうる点がきわめて重要である。住民・NPOによる都市計画提案活動を支援する社会システムの創設が期待される。

 例えば、都市再生特別措置法で定める緊急整備地域においては民間事業者による都市計画の提案制度が創設されている。この地域においても都市計画法21条関係の提案制度は排除されていないことから、同時にこの地域の住民などが積極的にこれを活用するよう支援する仕組みも創出すべきであろう。
 これによって緊急整備地域における都市計画の提案制度は、いっそう多様な市街地の活力と魅力とを生みだすと期待される。


2)緊急整備地域(都市再生特別地区)の選定等の手続きの公開と透明性確保

 緊急整備地域の選定及び都市再生特別地区における都市計画の特例的緩和については、当該区域の周辺や都市全体に対する外部不経済について十分に配慮する必要がある。この点について、市民セクターからの多様な発意を促すこと を可能とすべきである。具体的には、計画の内容の検討決定の手続きにおいて、以下の 各点につき適切な措置を導入する必要がある。

・緊急整備地域の検討当初からの情報公開及び市民意見の収集を行う。
・緊急整備地域及び都市再生特区の候補地に関し市民活動グループ、民間企業に対し提案を募集する。
・都市計画の内容を検討する早期段階から広く一般に情報を公開する。
・計画の複数の選択案(最終案ではなく基本的な選択が可能な)段階において、計画評価とその結果の公開を通じて意向収集を行うる。
・同時に、計画内容に大きな影響を受ける主体や重大な関心を有する市民から提出される意向に応じて、必要と考えられる専門家を含めた協議の場を設定し、その場において、提出された意見をもとに計画内容を十分に検討する必要がある。


3)都市再生緊急整備地域において住民参加を積極的に進める

 都市再生緊急整備地域においては、十分な住民参加が得られるよう、都市計画法17条の2を活用し、「都道府県または市町村が条例で法定の都市計画手続きを付加したり、詳細化したりすること」を、当該自治体に義務づけ、あるいは、これを勧奨する。都市再生特別地区の都市計画の決定には、住民参加が重要な役割を果たすと期待しているからである。その理由は以下のとおりである。


4)住民参加の積極的評価の必要性

住民参加には都市再生を成功させる上で2つの重要な機能がある。

 第一が、情報提供機能であり、第二が、民主的正統性の強化による社会的信頼の創出である(佐藤岩夫、東京大学社会科学研究所)。
 同時に、住民参加は、適切な方法(短期集中型参加による方針・計画作成の積み上げなど)を採用することにより、都市再生プロジェクトによる生活の質の向上を、むしろ迅速に実現させる力になりうる(参加の方法、技術の蓄積を活用)。
 緊急整備地域では、大規模土地利用転換などによる大プロジェクトが多くなるので、住民・NPOを含め多様な知恵の集約により、変化に富む個性豊かな都市景観・都市機能を生むことが望ましい。
 また多様な主体の参加により社会的コンセンサスを得つつ個別事業を推進することにより、全体としてスムースな事業の進展を実現することが期待できる。


5)第二種市街地再開発事業の民間事業者への施行権限付与

 第二種市街地再開発事業の施行権限を民間開発事業者に付与することは、収用権限を一般民間企業に与えることを意味する。
 都市計画決定を行う段階で、 公共性が確認されていることから、その決定内容に従って事業を実施し、必要に応じ て収用権限を行使することには妥当性があるとの見方も可能である。
 しかし、この論理が成立するには、行政の行う都市計画決定の公共性について、多様な主体の参加の もとで十分な審議を行う必要がある。
 同時に、行政が行う都市計画決定に対し 第三者による公正な不服審査制度を設けることや、行政手続き法などの改正を通じて 行政訴訟の道を市民により広く開放することなどの措置が少なくとも必要である。
 当面こうした措置を行うことが困難であるとするならば、第二種市街地再開発事業の施行権限を民間開発事業者に付与することは、都市再生特区に限定して行うべ きである。また、その際に、都市再生特区の指定や、計画内容の決定について、市民の発意を確実に反映し、またその公共性を十分に確認し得る手続きを用意する必要がある。
 具体的には、前述2、2)の特例的緩和に対して提案した手続きを 都市再生特区において義務づけるべきと考える。


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