中間のまとめへの意見書



社会資本整備審議会都市計画分科会中間のまとめへの意見書


                            2002年1月15日 東京ランポ  齋藤 明子

 
 諮問事項やこれまで5回の審議を踏まえ、分科会の中間のまとめに向けて現時点での意見を申し上げます。

1.めざすべき都市像の方向性について
◆容積率・日影規制の緩和の必要性はどこにあるのか

作成された資料の随所に、容積率や日影規制の緩和に結びつく表現があるが、緩和という方向性は疑問である。

その理由は以下のとおり。
(1)大企業向けのオフィススペースの需要はそれほど増えない。
「都市化社会」から「都市型社会」へ転換した今、戦後の経済発展のようなペースの経済成長は絶対に再来しない。したがってオフィススペースへの需要はそれほど大きくはならない。求められているのはオフィススペースの量的拡大でなく設備の高度化、アメニティの増進ではないか。

(2)大都市人口をこれ以上増大させるような施策は地方分権と矛盾する。
都市再生は地方都市や農村部と共存できるようなものにすべきである。住宅供給を増やし都市に人々を招き寄せるような施策は、少子化社会では必然的に地方の過疎化を招く。地方分権を推進するには生産と消費のサイクルが自立的であり得るような規模の市町村が地方に存在することが求められる。

(3) 狭い地域に大きな人口を抱えることは社会にとって大きな負担となる。
電力、交通、ごみ処理など一定規模であればそれほど負担にならないものが、ある規模を超えることによって負担が劇的に増大し、それを公共セクターが担うことになる。容積率の高い建物によって営利企業は膨大な利益を上げるが、ツケは国民に回る。

経済活性化の手段として都市計画を使って良いのか
「都市再生」の美名のもとに、不況対策の経済活性化のために都市計画をつかってはならない。なぜなら、バブルの再来は避けるべきであるからだ。
前世紀末のバブル経済は、他の経済活動を全部犠牲にして土地や建物を投機の対象として、国全体が踊ったことである。今回の課題である「不良債権」は、まさにバブルによって生み出されたものである。その「不良債権」の処理に「土地の流動化」を図ろうとすることは、麻薬中毒者が麻薬を打ち続けるような処方である。一度建設されたら何十年も維持され、環境を取り返しがつかないほど改変する等生活に大きな影響を及ぼす事業を、短いサイクルで変動する好・不況とリンクさせて考えるべきではない。議題にあがっていた「木造密集市街地の解消」は、経済再生のための「土地の流動化」という視点でとらえることは非現実的で、住み続けるためのコミュニティ形成をしなければ何も解決しない。

適正規模のコンパクトシティをめざす
以上のことから、私はめざすべき都市像として適正規模のコンパクトな都市が、全国に成立できる方向性を提言したい。コンパクトシティとは、経済開発とコミュニティ開発を生態系保全と調和させるサスティナブル・ディベロップメントの理念のもと、EUや欧米諸国でガイドラインを作成して取り組まれているまちづくりの方向性である。その実現のためには、土地・建物は公共的なものであるという前提のもと、都市住民が合意して作成した計画がなければ売買や建築・開発行為ができないという制度設計をすべきである。各都市が個別計画を策定するにあたって、環境影響評価や住民合意の手続きを定めたマスタープランを作成し、それに基づいた都市計画を行うことも必要である。


2.NPOの都市活動を促す枠組みについて

◆ NPOがまちづくりに参入できる制度設計をする
『民間』という言葉を使うときには『民間・営利』なのか『民間・非営利』なのかを常に明らかにし、利潤目的でなされてもいいこと(地域、事業の性質)と、そうではないことを峻別すべきである。営利企業が投資する地域はディベロッパーにまかせ、そうでない地域をNPOにという考え方であれば、私は反対せざるをえない。ディベロッパーも、ときには社会的責任を果たすため、採算のとれない仕事を引き受けるべきである。NPOも、ときには次の活動へ資金が回せるようなプロジェクトを担う機会がないと補助金、助成金への依存が強くなり、かえってコスト意識を持ちにくくなる。
NPOは、土地区画整理や市街地再開発など、膨大な初期投資を必要とする都市計画事業は行ってきてはいないが、景観や歴史的建造物の保全、公園づくり、河川の再生などのテーマに継続的に取り組む活動では多くの地域で実績をもっている。問題は、現行の都市計画制度がNPOの活動には大変利用しづらいことにある。資金的な支援でいえば、NPOに必要なのはまず立ち上げ資金であり、条件が整ってから一度に多額の金額が出るより、小額でも必要な節目ごとに得られることである。ここでも肝心なのは、補助金依存とならないように、他の財団助成などと併用できるよう多様な財源を認める補助要件や、次の事業に資金を回転できる融資制度の確立、運営にも充てられる使途の柔軟性などの制度設計である。また、制度的支援としては、次のような都市計画決定の仕組みを提案したい。


3.住民主体の都市計画のプロセスについて

◆ 生活者・住民が都市活動を担える枠組みをつくる
  行政や専門家は広い視野と公平な視点をもっており、住民や地権者はエゴで、利己的な視点しか持ち合わせていないという偏見が都市計画制度には根強く存在している。住む、暮らすという経験はだれでも持っており、その地域で長く暮らしてきた経験は学問的知識や情報と比肩し得る専門知識であるといえる。現在は住民の意見を聞くプロセスが、アリバイ作りや説得の手法のように設けられているにすぎないが、これを住民主体の計画立案プロセスに逆転させるべきである。住民や地権者が利己的になりやすいのは、限られた情報や知識しか提示されず、YESかNOかしか求められないことによるのである。

◆住民によるコミュニティ形成の支援こそNPOの役割
 ディベロッパ−や投資家は採算が合わないと手を引いてしまうが、住民にとっては生活の場はそこにしかなく、基本的にはどのような条件でも住み続けたいのが願望である。営利企業は利潤の追求という性格をもつのに対し、利潤ではなくミッションに従って行動するという性格をもつNPOは、修復型のまちづくりやコミュニティ形成、まちの維持管理に優位をもっている。好・不況に左右されないまちづくりが必要な今こそ、NPOの出番である。したがって、NPOが参入しやすい制度設計としては、コミュニティの合意によって自ら提案した都市計画を事業推進から、竣工後の維持管理までを一貫して行える都市計画プロセスを設計することにある。当然、うまくいかなかったら見直すことや、別の事業者に換えることのできる柔軟な仕組みとするべきで、次の条件が必要である。

◆ アルタナティブ(代替案)の検討に時間を惜しむべきではない
 民間活力の導入というが、建築物や道路等の社会資本の永続的性質や莫大なコストを考えると、これまではむしろディベロッパーにまかせ過ぎたのではないか。都市計画決定があまりに閉鎖的で簡単に行われるため、事業認可の段階で周辺住民がはじめて知り、かえって合意形成に時間がかかることが問題なのである。計画決定の段階から周辺住民や関心のある市民を巻き込み、複数案や対案の十分な検討の機会をつくるべきである。住所異動や所有者の移転が早い現代の都市では、一度きりの計画決定に基づいて永遠に事業を進めることは不可能である。

◆ 民間事業者に土地収用権を与えるべきではない
 都市計画事業についても、既成の第一種市街地再開発事業では合意形成に時間がかかるとして、第二種市街地再開発事業において民間事業者を施行者に加えることが提案されている。これは即ち民間事業者に土地収用権限を付与することである。一部の民間事業者などからの都市計画決定手続きの迅速化を求める規制緩和の主張が分科会の論議の底流にあることを合わせて考えると、民間事業者が強権的に事業を進める権限をもつことは、コミュニティの合意形成をないがしろにして、住民主体の都市計画を空洞化することにもなる。憲法上の疑義もあり得るこのようなことを行うべきではない。

都市計画のプロセスを多重多層多元化する
 多重とは、さまざまな段階で見直し、不用であれば廃止する手続きを設けることである。多層とは、一つの都市計画決定だけでなく、環境影響評価や財政的評価、さらには不服申し立てなど、さまざまなチェックをシステマティックに重ね合わせることである。多元とは、地権者・ディベロッパー・都市計画審議会・行政だけでなく、近隣住民・一般市民・議会・NPOなど、多様な主体が都市計画に関わることのできる制度設計をすることである。これは決してわかりにくい制度となるわけではなく、その手続と役割を自治体の条例などで明確にし、そのプロセスを必ず情報公開し、誰もが参加し意見を言える公聴会の権限拡充など徹底して開かれた制度とすれば、行政担当者と当該事業者が密室で協議して進める仕組みよりは、はるかに誰にとってもわかりやすいものとなるはずである。

前回 第4回都市計画分科会議事録(国土交通省)PDF社会資本整備審議会
http://www.mlit.go.jp/singikai/infra/city_planning/4/images/011121.pdf


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