<NPOの論点2>

市場と非営利


内部と外部…協同組合の取引

  民法の特別法として商法があり、民商法の特別法として協同組合法がある。NPO法は民法の特別法である。特別法は一般法に優先するから、協同組合法が非分配原則を緩和しているといって、立法政策として不都合があるわけではない。協同組合法を社会法ととらえる立場からすれば、社会政策としての非分配原則の緩和は歓迎されることかもしれない。とはいうものの、NPO法における非営利要件との食い違いが生じることになる。これは法律制度における非営利原則の二重基準ではないか。(*)

 *参考までに、非営利団体の利益非分配の規定例は、次表のとおり。医療法人、宗教法人における残余財産の帰属関係は定款などの規定が優先される。もっとも、民法それ自体の残余財産帰属に関する規定が定款優先主義をとっており、その規定を踏襲している所為でもあるのだが。


法律における非営利運営ルールの規定 
  利益非配分 残余財産非分配
社会福祉法人 収益の社会福祉への充当 社会福祉法人または国庫
学校法人 収益の学校経営への充当 教育事業または国庫
医療法人 剰余金配当禁止 定款・寄付行為に規定
宗教法人 収益の本来事業への充当 規則に規定

 話を市場と非営利性に戻し、協同組合にそくして、さらに取引の内部性・外部性について考えてみよう。前回、協同組合の取引は、その内部性によって営利性をもたないとみなされると述べた。しかし、それには例外がある。企業組合と漁業生産組合(以下、生産協同組合という)は営利団体的性格が濃厚であるとされ、多くの協同組合が享受する制度的優遇を受けることができない。その理由がまさに、取引の外部性にあると考えられる。生産協同組合の取引は、たとえば生活協同組合のように組合員とのみ取引し、員外利用が禁止されているのと違って、すべて市場での取引である。前にもいったように、市場における商品交換においては生産者・販売者の性格が問われるのではなく、商品が問われるというのが一般則である。
 たとえば、株式会社の運輸業と企業組合の運輸業とは、業として同じで、そのサービスの種類も同じである。日通ペリカン便やクロネコヤマトは大企業で、企業組合は小零細規模であるという違いは、企業規模の大小の問題であって、営利・非営利の問題ではない。非営利団体政策ではなく、中小企業保護政策のテリトリーということになる。
 このような論理で生産協同組合は、協同組合の非営利性から別扱いされることになる。法人税法において、生産協同組合は普通法人並みの税率が課せられ、一般の協同組合に対する優遇は適用されない。また、一般の協同組合は私的独占禁止法の適用除外となるが、生産協同組合は適用対象となる。
 生産協同組合は協同組合原則や配当制限などの内部運営ルールとしては、他の中小企業協同組合と同等の非営利基準の適用を受けている。にもかかわらず、その活動の外部性、すなわち市場における取引を本来事業とすることで営利企業と同等の取扱いを受けることになるわけである。これはまさに、内部ルールと市場ルールとの接点の問題を提起しているということなのだ。


NPOの収益事業

 協同組合論のフィールドから公益法人、NPOに目を転じよう。ここでの話は、法人税法の収益事業である。NPOの収益事業は生産協同組合の問題と同じく、内部ルールと市場ルールとの接点の問題である。
 収益事業という用語はNPO法にもあってまぎらわしいが、法人税法とNPO法とでは概念が異なる。法人税法では、物品販売業その他33業種を収益事業としてあげている。これらの事業は、業として継続反復して行われれば、公益法人やNPOであっても該当する。また、NPO法でいう本来事業(団体の目的を実現するための事業)であっても、これらに該当する事業は収益事業である。
 例示すると、介護保険のサービスは収益事業中の医療保険業とされる。寄付集めのためにTシャツなどを売ることも、反復継続して行われれば物品販売業である。収益事業とは不特定の者に商行為類似の行為をすれば営利と同様とみなすというものである。会報を会員に配布している場合は団体内部の話だから収益事業である出版業とみなされない。しかし、通達によれば、会員から出版物の代価をとらずに配布して別に会費を徴収しているときには、その代価相当額を収益とみなすとする。これは税務当局が、会員であっても出版物が一般に頒布されるものであれば、商行為類似とみなすと理解していることを示している。
要するに、法人税法でも、一般市場に流通させる財は非営利法人が供給するものでも、営利と同様の取扱いをされる。さきの市場の一般則が適用されるわけである。しかし出版物を例にとれば、これは公共政策の提案団体や、公共的なキャンペーン団体にとっては不合理である。本来の事業が出版業とされるなら、この場合、団体の非営利性は事実上意味がなくなる。非営利法人が、市場においても非営利と取り扱われるには、どのような論理が必要か。それが求められることになる。
 この問題には、ふたつの解き方があるように思う。そのひとつは、贈与性(あるいは無償性)を組み込んだ交換という考え方を導入できないかということだ。非営利組織の経済的基盤は、商品交換経済における等価の交換ではなく、何らかの贈与経済を組み込んだものであるといえるだろう。とすれば、その外部取引にも、贈与や無償といった要素が織り込まれているものでなければならない。出版についていえば、出版物の作成過程に何らかの贈与――製作コストの全部または一部が寄付による――が織り込まれていれば、商品としての出版物に類似のものであっても、一般商品から区別される要素をもつことになるだろう。また、出版物の価格を、贈与分を差し引いた製作・販売経費をこえない範囲に設定すれば、販売行為が贈与性をもつことになる。
 いまひとつは、市場取引の公共性とは次元を異にする公共性による政策的要請である。これを市場的公共性に対して、とりあえずコミュニティ的公共性(または政治的公共性)とネーミングしておこう。協同組合に対する税の優遇には、ここにも根拠がある。法人税法は多分、この公共性の視点から収益事業の例外を列挙している。たとえば、学校給食用品の販売は物品販売業から除かれる。畜産事業団や蚕糸砂糖類価格安定事業団の一部販売業務もそうだ。これらの例でも分かるように、その除外基準はあいまい模糊、恣意的限定的のそしりを免れまい(農水系のプレッシャーが強かったのだろうか)。介護保険における社会福祉法人も除外される。同じサービスに従事している民間営利企業とNPO法人が、なぜ収益事業として利益を課税され、社会福祉法人が課税を免れるのか、基準が判然としない。介護保険市場の市場性に着目して政策立案するのか、それとも高齢者介護の福祉性に着目するのか。厚生省は、こうした政策スタンダードを明確にせずに、社会福祉法人を囲い込むという縄張り擁護に走っているようにも思える。
 それはともかく、取引における贈与性とコミュニティ的公共性とは別々に組み立てることもできるのだが、両者を連関づけることもできそうである。そこから贈与性と公共性とを結合していく、客観的な政策論を探求するという課題が出てくることにもなるだろう。(つづく)

(東京ランポ理事・林 和孝)

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