カレッジランポ2002-V  まちづくり条例最前線からの課題
             〜市民発意・市民提案をどう活かすか〜


 

 いまや「まちづくり条例」は、一種のムーブメントとなっている。しかし、地域が抱える課題は様々であり、各地で策定されている「まちづくり条例」の目的・内容・形態も多岐にわたり、それぞれに独自性・特徴を持っている。
 今回は、策定に取り組んできた現場からの報告として、狛江市まちづくり条例検討委員会委員長の大方潤一郎さん(東京大学教授)と、杉並区まちづくり条例に関する懇談会委員の西田穣さんを講師に迎えて、各地で「まちづくり条例」を考える手がかりを探った。(1月25日開催、文責:編集部)


伊藤久雄(東京ランポ理事)「まちづくり条例策定の課題と提案」

 2000年の分権一括法施行に伴う条例制定権の拡大により、自治体で条例策定への意欲が高まった。自治基本条例、市民参加条例、市民協働条例など、市民参画に関係する条例が数多く登場しているが、地域の物的環境整備をルール化するものとしての「まちづくり条例」もその1つである。
 まちづくり条例では、市民提案を制度化することが重要なポイントとなっている。都市計画の提案制度は、2002年の都市計画法改正でも創設されたが、法律が、土地所有者等の3分の2以上の同意を要件としたり、5,000u以上の土地を対象としたり(政令による)しているのに対し、条例では、提案の主体や要件、行政の対応などを地域の事情に合わせて独自に定めている。
 東京ランポからの提案としては、まず、まちづくり条例は地域の課題や状況に応じて多様であり、市民と行政とが協働して策定すべきということである。また、従来のように問題が起きてから対応するのでなく、事前にまちづくりの手続きを定めておくことが重要である。特に、市民自らが地域の将来像を持てるように行政が支援することや、都市計画決定までに多くの関係者が協議できるようにすること、事業の進行管理や必要に応じて見直しができるようにすることなどが必要である。(詳しくは、東京ランポ発行『地域からつくるまちづくり条例〜課題対応型から事前手続き型への提案〜』を参照。)


大方潤一郎氏「狛江市まちづくり条例」

 まちづくり条例の系譜を振り返ると、長野県穂高町のように豊かな自然環境を乱開発から守ることや、地方都市の中心市街地の衰退に対処する目的で、土地利用をコントロールするというトレンドがあった。ここ2、3年は、建築基準法が次々と緩和されたことで、まちなかに大きなマンションが建つといった紛争が増えており、まちなかや郊外の住宅地でまちづくり条例への関心が高まっている。
 狛江市の場合、都市マスタープラン(2001年3月)において、その実現のためにまちづくり条例の制定を明記したことがきっかけとなった。都市マス策定委員の有志が条例案を市に提出し、市が回答書を出すことも行われた。2002年度、公募市民委員3名を含む8名の策定委員会を設置し、月1回のペースで検討してきた。9月からは骨子案を事務局が作成し、11月の市民向け中間報告会を経て、1月より条文案の検討に入った。3月議会にて制定の方向である。
 この条例は、市全体の土地利用計画は策定せず、地区ごとの合意形成がスムーズに進むことを最大の目標としている。「地区まちづくり協議会」の認定要件や、「地区まちづくり計画」提案時の地区住民同意要件などに、数値基準を設けず、第三者機関である「まちづくり委員会」が総合的に判定することで、地区がスムーズに活動に入っていけるようにした。市民発意という意味では、「協議会」になる前の段階が特に重要であり、数人の有志で発足するような「地区まちづくり準備会」に支援を行う。また、地区まちづくりの一方で、「テーマ型まちづくり」を位置づけたのも特徴である。活動提案をコンペするなどして、支援を行うことを考えている。
 開発協議については、都市計画法の開発行為(500u以上)に該当しない小規模なものでも、共同住宅はすべて届出を必要とした。住民と事業者が、第三者・専門家を交えて、協議を行う公開の場として、「調整会」を設けることも定めた。


西田穣氏「杉並区まちづくり条例」

 杉並区では、2001年8月から2002年9月の間、7名の公募委員を含む13名の区民懇談会によって、条例が検討されてきた。但し、懇談会は提言を行ったのみで、条文自体は事務局が作成した。そのため、懇談会の考えが反映されたかどうか疑問な点もある。条例は、2002年11月に成立し、2003年4月より施行される。
 杉並区は、先進的なまちづくりをやっていると外からは見られているが、保守的なところがある。局所的に注目すべきまちづくりをやっても、区全体に成果を広げようとしない。懇談会が始まった当初も、討議期間をわずかに半年程度と想定するなど、条例づくりへの意識が委員と職員とでずれていた。同時進行していた自治基本条例づくりの影響もあるが、まちづくり団体等の関心を高める努力が足りない場面もあった。
 懇談会の提言は、その一部が条文につながったと言える。事務局は、地区計画等の手続きに関するルールができればよく、懇談会が提言した開発コントロールについては行わないとの考え方であった。そのため、事業者への罰則などの担保策も含まれていない。一方で、条例を確定的なものとせず、施行後5年を目途に見直しをする項目は入った。
 この条例の特徴は、法定の地区計画以外に、任意のまちづくりルールを区長が公認する制度を設けたことである。その前提には、区全体を地域のまちづくりルールで覆っていくという考え方がある。都市マスタープランのゾーン別方針の策定が、そのきっかけになることが期待されている。
 今回の経験から見えた課題であるが、まず、既存の条例や要綱を含めて体系的に見る視点が必要だったことである。また、地域にまちづくりを分権するという理念が必要である。その理念がないために、権限や財源が伴わないものとなってしまった。さらに、都市計画審議会の機能の充実についても踏み込み、もっとまちの現場に出て行くといった役割を持たせる必要があるだろう。


質疑応答

●狛江で課題と思われる点は何か。
→ 実現していくのに、担当者が足りないのではないか。狛江市には、建築主事もいない。地域のまちづくりをサポートするNPOを別途立ち上げるのだろうか。また、まちづくり条例そのものは、手続き条例なのですぐにできる。むしろ、めざすまちのイメージをどのようにつくっていくのかが、より大きな課題である。(大方)
●めざすまちのイメージはどのようにつくるのか。また、町会などは納得するのか。
→ まちづくり協議会などで、当事者意識を持って話し合う。町会の抵抗もあるだろうが、納得してもらうよう努力が必要である。(大方)
●第三者機関に、提案する市民や団体の責務や熱意まで判断できるのか。
→ 責務や熱意まで厳密に判定はできないだろう。責務や熱意は、活動するなかで芽生えてくるとも言える。むしろ、第三者機関の判定だけでなく、公告・縦覧・意見書といったプロセスを備えることが大切である。(大方)
→ 地区住民の何割の同意が必要といった基準は設けるべきでないというのが、懇談会の結論だった。(西田)
●杉並では住民投票制度を外したとあるが。
→ 同時進行していた自治基本条例に入った。まちづくりは少しずつ進んでいくものであり、少数意見を尊重する意味でも、まちづくりに住民投票は向かないということになった。(西田)
●杉並の条例は簡潔だが、機能するのか。
→ 懇談会の公募委員だった弁護士は、事務局がつくった条例案を見て、「裁判では何の役にも立たない」と一蹴してしまった。(西田)

2003年2月 月刊ランポNO.59掲載